第12話

第十話
189
2021/08/13 14:09



しばらくぶりに顔を上げた目の前の隣人は、何故か今まで見た中でいちばんの笑顔だった。





花宮あなた
え、かわいい……。


笑顔の多い人だな、とは思っていたけどこれはズルい。


思わず心の声が漏れちゃったじゃんか。




聞こえてないだろうか。




河野純喜
あの、実は僕、イタリアンレストランで働いてて、…だから僕の作ったもので元気になってくれて嬉しい!!です!



そう言いながら胸の前でガッツポーズをする彼は少年のようだった。



さっき漏れた言葉は届いてなかったらしくほっとする。









河野純喜
社会人大変だと思うけど、無理せず休みながらがんばってください。
河野純喜
ごはん作ったり、食べる元気なかったら俺の家のピンポン押してください。
花宮あなた
ありがとうございます、って、え?


なんかサラッと、疲れたら俺の家来てって言った?



河野純喜
いや、変な意味とかはなくて、
俺の料理の練習に付き合うって思って……。



数分前、少年のようだった彼はどこに行った。



変なこと言ったと思ったのだろうか、ボリュームが下げられた最後の言葉に笑う。



花宮あなた
お気遣いありがとうございます!
じゃあ、そのときはよろしくお願いします!

行くつもりなんて全くないけど、この人には落ち込んだ顔は似合わないよ。


…なんて、まだ2回しか会ってないのにそんな風に思ってしまった。



河野純喜
え!ほんまに!!?
いつでも待ってるんで!


途端、笑顔になった彼は



じゃあ、これありがとう!





と紙袋を揺らして部屋の中に戻ってしまった。

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