第3話

1.告白-2
3,806
2018/08/01 01:42
屋上にやってきたのは、他の誰でもない西内くんだった。
彼は一歩一歩、私のところへと近づいてくる。
まだ髪を整えている最中だったけどあわててスマホをしまう。
どうしよう。
身だしなみも心の準備もできてないよ!
西内蓮
西内蓮
悪い。……待たせた?
桜井心春
桜井心春
う、ううん。私もいま来たところだよ
ありがちなセリフを口にしながら、なんとか落ち着いているフリをする。
西内蓮
西内蓮
それならよかった。……屋上ってけっこう寒いんだな。もう春なのに
桜井心春
桜井心春
高いところにいると、余計に寒く感じるのかな
西内蓮
西内蓮
そうかもしれない
桜井心春
桜井心春
……かもしれないね
あたりさわりのない天気のお話。
いきなり呼び出されて気まずいと思っているのかな。
どことなく顔がこわばっているようにもみえる。
ふたりきりで話すなんてあの時以来だし、当たり前か。
呼び出した私でさえ、どこを見てどんな態度で接したらいいかわからないのだから。
西内くんはすっきりとした目鼻立ちが特徴的なイケメンで、髪型はゆるふわショートマッシュヘアとオシャレで背も高い。
今日も制服、とくにネクタイがよく似合っている。
誰かとつるむタイプではなく、不思議と近寄れないオーラがある。
そんな彼が目の前にいるっていうだけでテンパって、どうやって話を切り出せばいいのかもわからない。
あんなに頭の中で練習したっていうのに……。
西内蓮
西内蓮
それで……話っていうのは?
桜井心春
桜井心春
あ、そうそう! あのね……ええと……
まさか彼から切り出してくるとは思わなくて、うまく言葉がでてこなかった。
どうしよう、早く本題にいかない私にあきれているのかもしれない。
西内くんの硬い表情をみて、いじいじした態度をとるのは失礼かもしれないと思った。
わざわざ時間をさいて、屋上まできてくれたっていうのに。
早くちゃんと用件を伝えなくちゃ。
そのために、昨日時間かけて文章を作って、勇気を出して連絡したんだもの。
静かに深呼吸をして、ぎゅっと目をつむる。
セーターのすそを握りしめ、心のなかでこう唱えた。
……告白しようと決めたときの気持ちを思い出して、私!
桜井心春
桜井心春
わ、私……西内くんのことが好きです! つ、つ、つきあってください!
口ごもった。声がふるえた。
でも、言いきった!
私、ちゃんと伝えられたんだ……。
無事に告白することができてほっとする。達成感もおぼえた。
……でも、それと同時に生まれたのは、返事を待つという怖さだった。
西内くんがどんな反応をしているのかさえ、たしかめることができない。
ふたりの間にはしばらく沈黙が続いた。
計ってみたらほんの数十秒かもしれない。
けれど、私にとってはまるで時間が止まったかのように重く感じられた。
どうして黙っているの?
いきなり告白されて困っているのかな。
どうしよう、怖い。
セーターのすそを握る手がふるえる。
目を閉じているせいか、やたらいろんな音が気になり始める。
ひゅうひゅうと冷たい風の音、ドクンドクンとうるさい心臓の音。
そして、西内くんが大きく息を吸う音。
彼が何かを言おうとしてるんだってわかった。
同時に、覚悟も決めた。
ふられても笑顔で『話を聞いてくれてありがとう』って言う。
教室に戻るまで泣くのはガマン。
千秋ちゃんになぐさめてもらうんだ、って。
西内蓮
西内蓮
──桜井にそんな風に想ってもらえて、すごくうれしいよ
桜井心春
桜井心春
……え?
まるで予想していなかった言葉を聞いて、思わず目を開けた。
ゆっくりと顔を上げると……真っ赤な顔をした西内くんと目が合った。
彼はすぐに私から顔をそらす。
キレイな瞳はゆらゆらと揺れている。
……これって、もしかして、期待しちゃってもいいのかな?
私の告白を、西内くんが喜んでくれている。
受け入れてくれるかもしれないって。
西内蓮
西内蓮
でも
あわい期待をもった瞬間、彼はふたたび口を開いた。
〝でも〟という接続詞から、私にとってよくない内容であることは予想がつく。
そう言ったっきり黙りこくってしまった西内くん。
すぐに続きを話そうとしないのはきっと……私を傷つけないように言葉を選んでいるからだ。
いったい何を話そうとしているの?
私の気持ちはうれしいのに、こたえられないのはなぜ?
まだ続きを聞いていないのに、涙が込みあげてくる。
一瞬にして天国から地獄につき落とされた気分だ。
泣いているところを見られたくないと思ってうつむこうとした、その時だった。
西内蓮
西内蓮
俺と付き合ったら普通の恋愛できねーよ?

プリ小説オーディオドラマ