屋上にやってきたのは、他の誰でもない西内くんだった。
彼は一歩一歩、私のところへと近づいてくる。
まだ髪を整えている最中だったけどあわててスマホをしまう。
どうしよう。
身だしなみも心の準備もできてないよ!
ありがちなセリフを口にしながら、なんとか落ち着いているフリをする。
あたりさわりのない天気のお話。
いきなり呼び出されて気まずいと思っているのかな。
どことなく顔がこわばっているようにもみえる。
ふたりきりで話すなんてあの時以来だし、当たり前か。
呼び出した私でさえ、どこを見てどんな態度で接したらいいかわからないのだから。
西内くんはすっきりとした目鼻立ちが特徴的なイケメンで、髪型はゆるふわショートマッシュヘアとオシャレで背も高い。
今日も制服、とくにネクタイがよく似合っている。
誰かとつるむタイプではなく、不思議と近寄れないオーラがある。
そんな彼が目の前にいるっていうだけでテンパって、どうやって話を切り出せばいいのかもわからない。
あんなに頭の中で練習したっていうのに……。
まさか彼から切り出してくるとは思わなくて、うまく言葉がでてこなかった。
どうしよう、早く本題にいかない私にあきれているのかもしれない。
西内くんの硬い表情をみて、いじいじした態度をとるのは失礼かもしれないと思った。
わざわざ時間をさいて、屋上まできてくれたっていうのに。
早くちゃんと用件を伝えなくちゃ。
そのために、昨日時間かけて文章を作って、勇気を出して連絡したんだもの。
静かに深呼吸をして、ぎゅっと目をつむる。
セーターのすそを握りしめ、心のなかでこう唱えた。
……告白しようと決めたときの気持ちを思い出して、私!
口ごもった。声がふるえた。
でも、言いきった!
私、ちゃんと伝えられたんだ……。
無事に告白することができてほっとする。達成感もおぼえた。
……でも、それと同時に生まれたのは、返事を待つという怖さだった。
西内くんがどんな反応をしているのかさえ、たしかめることができない。
ふたりの間にはしばらく沈黙が続いた。
計ってみたらほんの数十秒かもしれない。
けれど、私にとってはまるで時間が止まったかのように重く感じられた。
どうして黙っているの?
いきなり告白されて困っているのかな。
どうしよう、怖い。
セーターのすそを握る手がふるえる。
目を閉じているせいか、やたらいろんな音が気になり始める。
ひゅうひゅうと冷たい風の音、ドクンドクンとうるさい心臓の音。
そして、西内くんが大きく息を吸う音。
彼が何かを言おうとしてるんだってわかった。
同時に、覚悟も決めた。
ふられても笑顔で『話を聞いてくれてありがとう』って言う。
教室に戻るまで泣くのはガマン。
千秋ちゃんになぐさめてもらうんだ、って。
まるで予想していなかった言葉を聞いて、思わず目を開けた。
ゆっくりと顔を上げると……真っ赤な顔をした西内くんと目が合った。
彼はすぐに私から顔をそらす。
キレイな瞳はゆらゆらと揺れている。
……これって、もしかして、期待しちゃってもいいのかな?
私の告白を、西内くんが喜んでくれている。
受け入れてくれるかもしれないって。
あわい期待をもった瞬間、彼はふたたび口を開いた。
〝でも〟という接続詞から、私にとってよくない内容であることは予想がつく。
そう言ったっきり黙りこくってしまった西内くん。
すぐに続きを話そうとしないのはきっと……私を傷つけないように言葉を選んでいるからだ。
いったい何を話そうとしているの?
私の気持ちはうれしいのに、こたえられないのはなぜ?
まだ続きを聞いていないのに、涙が込みあげてくる。
一瞬にして天国から地獄につき落とされた気分だ。
泣いているところを見られたくないと思ってうつむこうとした、その時だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。