──次の日。
西内くんに会えるのが楽しみで、ウキウキして学校へと向かった。
昨日は途中まで一緒に電車に乗って帰った。
同じ学校の人達にちらちら見られて少し気まずかったな。
またウワサされてるのかなって思うと落ち着かなくて、西内くんともうまく話せなかった。
でも、私が先に電車を降りるとき、西内くんから「これからも一緒に帰ろうな」と言われて、もやもやした気持ちが吹っ飛んだ。
今日も明日もずーっと一緒に帰れるなんて、うれしすぎる。
席についてアコちゃん先生を待っている間、ニヤニヤが止まらなかった。
予鈴が鳴ると先生がやってきて、朝の挨拶のあとに簡単な事務連絡をきいた。
午前中はずっとホームルームで、まずは学級委員などの委員決めを行うらしい。
今年はどの委員にしようかな。
去年は美化委員でこれといって大きな仕事がなかったから、今年は遠足委員に立候補してみようかな。
なんだか楽しそうだし。
千秋ちゃんと一緒にできたらいいけど、彼女は多分……。
アコちゃん先生の声かけにすぐ反応したのは、目の前に座っている千秋ちゃんだった。
やっぱそうだよね。
一年の時も学級委員をしていたもの。
しっかり者の彼女は適役だと思う。
どこからともなく拍手が起こる。
満場一致で女子の学級委員は千秋ちゃんに決まった。
男子の学級委員に名乗り出たのは、転校生の白鳥くんだった。
立ち上がって教卓の前まで出ると、両腕を胸の前で組んで、アコちゃん先生の横に立った。
と得意げにつぶやく。
白鳥くんの突飛な行動に教室がどよめいた。
先生もぼう然としている。
白鳥くんは大きくゆっくりとうなずく。
私も同じことを思っていた。
転校生っていうのもあるけど、強烈に個性的な彼は、みんなをまとめるタイプではなさそうにみえるけど……。
千秋ちゃんは白鳥くんの立候補を後押ししている。
彼女は人をからかうようなタイプじゃない。
……ってことは、本気で白鳥くんが魔法使いだって信じてるんだ。
〝この世界には、魔法というふしぎな力を使える人間がいる〟
いつか子供のとき、お母さんに教えてもらったことがある。
でも、魔法が使えるかは血筋によって決まっていて、ほとんどの魔法使いはそのことを隠しているらしい。
子供のころはアニメの影響で魔法少女にあこがれていたから、現実を知ったときはショックだったな。
また、魔法使いの人数は年々減っているとも聞いた。
実際、十六年生きてきて今まで出会ったこともないし、都市伝説じゃないかとすら考えていた。
魔法なんてみたこともないし、みんなも同じだと思う。
だから、白鳥くんが魔法使いだと信じているのは千秋ちゃんくらいじゃないかな。
アコちゃん先生は困ったように笑いながらも拍手をして応えた。
みんなも先生に合わせて、パチパチと手を叩いた。
白鳥くんは、先生の隣で満足そうに笑っていた。
他の委員決めは、千秋ちゃんと白鳥くんが取りしきって行うことになった。
千秋ちゃんがみんなに声をかけて、白鳥くんは黒板に名前を書いていく。
白鳥くんの字はとてもきれいで、まるで国語の先生みたいだと思った。
そっか、遠足委員は千秋ちゃんもなるんだ。
一緒にできたら楽しそうと思って、私は迷わず手をあげた。
ほかにはどんな子が立候補しているのかな?
私より前に座っている人たちは誰も手をあげていない。
後ろも気になるけど、わざわざ振り向くのもどうかと思って確認しなかった。
千秋ちゃんは私と後ろのほうを交互に見て、意味深に笑った。
えっ……ウソでしょ?
西内くんも遠足委員に手をあげたの?
最初は聞きまちがいかと思った。
でも、白鳥くんがふたりの名前を書いたのを見て、そうじゃないと知る。
ちょっと照れちゃうけど、うれしいな……。
一緒に遠足の準備をしたり、しおりを作ったり、いろんなことができるんだ。
千秋ちゃんと白鳥くんもいて、楽しくなりそうだし。
五月の遠足のことを考えるだけでウキウキした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!