振り向くと、同じクラスの女子がふたりいた。
よくウワサ話をしている子たちだ。
白鳥くんのこともそうだし、昨日私と西内くんが一緒に教室を出るときも話していた。
掃除をしているときは教室にいなかったのに、わざわざ何の用だろう。
……嫌な予感がする。
質問してきた子は怖い顔をしていて、もうひとりの子の表情は暗い。
彼女の迫力がすごくてたじろいでしまう。
なんで、こんなことを聞かれてるんだろう……?
私みたいな普通の女子が、カッコいい西内くんと付き合っているから?
あんまり答えたくないけど、黙っていても状況は変わらない。
ああ、そっか。
だから黙ってる子は悲しそうにしているんだ。
私にだって彼女のつらい気持ちはわかる。
でも、責められるのはちょっと理解できない。
それに、西内くんに誰がふさわしいかなんて、彼本人が決めることなのに。
質問に答えることができずに、きゅっと唇をむすぶ。
たしかにそういうことは何も聞いていない。
でも、ちゃんと返事はもらってる。
私のことを気になっていたって言ってたし、彼女だって思ってくれてるはずだ。
西内くんの彼女だって胸を張りたいのに、なぜかうまく言い返すことができない。
悔しいのか悲しいのか自分でもわからないけど、胸が痛くてうつむいた。
──その時だった。
はきはきとした話し方、遠くまで届く低い声。
昨日出会ったばかりだけど、変わった言い回しで白鳥くんだとすぐにわかった。
彼は片手にゴミ袋を持っている。
私に質問攻めをしてきた子は、矛先を白鳥くんに向けた。
白鳥くんは両腕をクロスさせ、謎のポーズを決めている。
女子たちは突然現れた転校生にたじろいでいるようだ。
女子はぐうの音もでないようで、苦いお薬を飲んだ時のような顔をしていた。
ずっと黙っていた、西内くんに片想いをしていた女子が「もう行こう」と小声でつぶやいた。
ふたりの背中が小さくなったのを確認して、白鳥くんに話しかけた。
あれ? 思ってた反応と違う。
また難しい言葉を使ってくるかと思ったのに。
私と目を合わせようとしないし、心なしかほおがほんのり赤い。
もしかして、お礼を言われて照れているのかな?
先生が転校生と知らずに頼んだのかな?
転校生だってちゃんと言えばよかったのにね。
素直に引き受けたり、困っている私を助けたり、お礼をしたら照れたりする。
白鳥くんは見た目と言動がハデなだけで、本当は普通の男の子なのかもしれない。
ゴミを捨てた白鳥くんと一緒に教室まで戻る。
特に話がはずんだわけでもないけど、ふしぎと落ち着くというか、懐かしい感じがした。
まだ出会ったばかりなのに、どうしてだろう。
彼がいい人かもしれないって思ってるからかな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。