第11話

2.強烈な転校生-7
1,983
2018/08/22 02:51
振り向くと、同じクラスの女子がふたりいた。
よくウワサ話をしている子たちだ。
白鳥くんのこともそうだし、昨日私と西内くんが一緒に教室を出るときも話していた。
掃除をしているときは教室にいなかったのに、わざわざ何の用だろう。
……嫌な予感がする。
桜井心春
桜井心春
えっと、私に何か用かな?
クラスメイト
単刀直入に聞くけど、西内くんと付き合ってるの?
質問してきた子は怖い顔をしていて、もうひとりの子の表情は暗い。
桜井心春
桜井心春
つ、付き合ってるよ、西内くんと……
クラスメイト
ホントに? それって、どっちからコクったの? まさか、彼のほうから告白してきたなんて言わないよね!?
彼女の迫力がすごくてたじろいでしまう。
なんで、こんなことを聞かれてるんだろう……?
私みたいな普通の女子が、カッコいい西内くんと付き合っているから?
あんまり答えたくないけど、黙っていても状況は変わらない。
桜井心春
桜井心春
私のほうから告白したよ
クラスメイト
それって抜けがけじゃん! 桜井さんズルいよ。西内くんは〝みんなの王子様〟なんだよ? それくらいわかるでしょ?
桜井心春
桜井心春
西内くんが女子に人気っていうのはもちろん知ってるけど……
クラスメイト
それにさ、西内くんにはこの子のほうが似合うと思うの。かわいいってよく男子に言われてるし。この子、西内くんのこと本気で好きだったんだよ?
ああ、そっか。
だから黙ってる子は悲しそうにしているんだ。
私にだって彼女のつらい気持ちはわかる。
でも、責められるのはちょっと理解できない。
それに、西内くんに誰がふさわしいかなんて、彼本人が決めることなのに。
桜井心春
桜井心春
気持ちはわかるけど、でも……
クラスメイト
っていうか、ホントに西内くんにオッケーしてもらったの? 桜井さんが勘違いしてるってことはないの?
桜井心春
桜井心春
それはないと思うよ
クラスメイト
じゃあ聞くけど、西内くんは桜井さんのことをいつから好きだったの? どういうところが好きだって言ってた?
質問に答えることができずに、きゅっと唇をむすぶ。
たしかにそういうことは何も聞いていない。
でも、ちゃんと返事はもらってる。
私のことを気になっていたって言ってたし、彼女だって思ってくれてるはずだ。
西内くんの彼女だって胸を張りたいのに、なぜかうまく言い返すことができない。
悔しいのか悲しいのか自分でもわからないけど、胸が痛くてうつむいた。
──その時だった。
白鳥蒼真
白鳥蒼真
そなたらに文句を言う資格はないと思うが?
はきはきとした話し方、遠くまで届く低い声。
昨日出会ったばかりだけど、変わった言い回しで白鳥くんだとすぐにわかった。
彼は片手にゴミ袋を持っている。
クラスメイト
はあ? 何それ、どういう意味よ
私に質問攻めをしてきた子は、矛先を白鳥くんに向けた。
白鳥蒼真
白鳥蒼真
〝西内はみんなのもの〟と徒党を組んでいるのは、告白する勇気がないからだろう? 桜井にはその勇気も、傷つく覚悟もあった。そなたらより一歩先を進んでいただけのことだ
白鳥くんは両腕をクロスさせ、謎のポーズを決めている。
女子たちは突然現れた転校生にたじろいでいるようだ。
クラスメイト
あ、あんたに何がわかるの? 私たちのこと何も知らないくせに
白鳥蒼真
白鳥蒼真
貴様らは人のウワサ話ばかりする人間。桜井は転校生を気遣える人間。どちらがきれいな心を持っているか、なんて考えるまでもない。西内が彼女を選んだ理由、この俺様にはわかるぞ
クラスメイト
な、なによ……
女子はぐうの音もでないようで、苦いお薬を飲んだ時のような顔をしていた。
ずっと黙っていた、西内くんに片想いをしていた女子が「もう行こう」と小声でつぶやいた。
ふたりの背中が小さくなったのを確認して、白鳥くんに話しかけた。
桜井心春
桜井心春
どうもありがとう。白鳥くんの言葉、うれしかったよ
白鳥蒼真
白鳥蒼真
……それは、どういたしまして
あれ? 思ってた反応と違う。
また難しい言葉を使ってくるかと思ったのに。
私と目を合わせようとしないし、心なしかほおがほんのり赤い。
もしかして、お礼を言われて照れているのかな?
桜井心春
桜井心春
そういえば、教室にまだゴミあったの? 気づかなくてごめんね
白鳥蒼真
白鳥蒼真
いや、これは見知らぬ初老の男性に頼まれたのだ。断る理由もないので引き受けたが、迷ってしまってな
先生が転校生と知らずに頼んだのかな?
転校生だってちゃんと言えばよかったのにね。
素直に引き受けたり、困っている私を助けたり、お礼をしたら照れたりする。
白鳥くんは見た目と言動がハデなだけで、本当は普通の男の子なのかもしれない。
桜井心春
桜井心春
そうなんだ。燃えるゴミはこの場所で、燃えないゴミはあっちにあるよ
白鳥蒼真
白鳥蒼真
ほう。インプット完了だ
ゴミを捨てた白鳥くんと一緒に教室まで戻る。
特に話がはずんだわけでもないけど、ふしぎと落ち着くというか、懐かしい感じがした。
まだ出会ったばかりなのに、どうしてだろう。
彼がいい人かもしれないって思ってるからかな。

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