第8話

2.強烈な転校生-4
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2018/08/08 02:38
白鳥くんの自己紹介が終わったあとは、先生の事務連絡を聞いて解散となった。
みんなは近くの人と話をしながら帰りの準備をしている。朝よりも緊張がとけているみたいだった。
千秋ちゃんは部活の相談があるからと、先生と一緒に教室を出て行った。
ちらりと西内くんのほうを見ると、ひとりでスマホをいじっているようだった。
いつ帰るんだろう?
一緒に帰れたりするのかな……?
とりあえず、西内くんが行動開始するのを待つことにした。
クラスメイト
魔法使いだなんて、絶対ウソだよね
クラスメイト
あれはただの中二病だよ
何もせず座っていると、白鳥くんのウワサ話が耳に入った。
一部の女子たちが話しているみたい。
たしかに、中二病という表現がぴったりかもしれない。
でも、本人に聞こえるかもしれないのにひそひそ話をするのはよくないと思う。
どんな内容でも、いい気持ちはしないだろう。転校するってだけでも大変だろうに、周りから壁を作られたらもっとつらいはずだ。
白鳥くんのほうを見ると、彼はまだ座ったままだった。
彼に話しかけている人はひとりもいない。白鳥くんが個性的すぎて、どう接していいかわからないのかもしれない。
気のせいかもしれないけど、うしろ姿が寂しそうにみえた。
私にできることがあれば何かしてあげたい、と思ったときには立ちあがっていた。
白鳥くんの席まで移動して、彼と向かい合うように立つ。
桜井心春
桜井心春
あの、白鳥くん……
いきなり話しかけられて驚いたのか、左目を大きく見開いている。
くっきり二重でまつ毛が長く、うす茶色の瞳はとてもきれいだ。
近くで見て、改めて眼帯をしているのがもったいないと思った。
桜井心春
桜井心春
私、桜井心春っていうんだ、よろしくね。わからないことがあったら何でも聞いて?
話しかけても白鳥くんの反応はなかった。
それどころか、ピクリとも動かない。
どうしたんだろう、そんなにビックリすること?
それとも、話しかけてほしくなかったのかな。
もしそうだとしたら、私ってただのおせっかい……?
桜井心春
桜井心春
ということで、じゃあ、また明日ね!
沈黙が気まずくなって、適当に場を切り上げようとした、その時だった。
白鳥蒼真
白鳥蒼真
永年の時が過ぎようとも、天使であることは変わらないのだな
桜井心春
桜井心春
……えっ?
白鳥蒼真
白鳥蒼真
ただし一つ忠告しておく。その優しさ、悪魔につけこまれないことだな。堕天使に落ちることになるぞ!
桜井心春
桜井心春
だ、堕天使……?
自己紹介の時と同じようなポーズをとり、意味不明なことを話す白鳥くん。
やっぱり、話しかけるのは間違いだったかな?
なんて答えたらいいかわからず困っていたとき、ふと椅子から立ち上がった西内くんと目が合った。
スクールバッグを肩にかけている。
もう帰ろうとしているのかな、と寂しく思ったのもつかの間。
西内くんはなぜかこっちに近づいてきて、私の隣に立った。
西内蓮
西内蓮
桜井、なにしてるの
桜井心春
桜井心春
西内くん……! あのね、白鳥くんに『わからないことがあったら何でも聞いて』って話しかけていたの
西内蓮
西内蓮
たしかにな。白鳥、俺は西内蓮だ。遠慮せずなんでも聞いてくれていいから
白鳥蒼真
白鳥蒼真
……かたじけない
西内くんも、転校生の白鳥くんが気になって話しかけにきたのかな。
優しいもんね。
でも、その割にはちょっと無愛想な気もするけど。白鳥くんも一言つぶやいたっきり黙っているし。
まぁでも、男同士の会話ってこんな感じなのかもしれない。
西内蓮
西内蓮
じゃあ、そろそろ帰ろうか
西内くんは視線を白鳥くんから私へと移した。
これって、どう考えても、私に言ってるよね?
やばい、すごくうれしい……!
桜井心春
桜井心春
う、うん! じゃあカバン取ってくるね
西内蓮
西内蓮
俺は廊下で待ってるから
桜井心春
桜井心春
わかった。……白鳥くん、またね
西内くんが教室を出ていき、私は席に置きっぱなしだったブラウンのスクールバッグを持って廊下に出た。
その途中、女子の視線が私に集中していたのは気のせいじゃない、と思う。
今度は、白鳥くんじゃなくて私と西内くんのウワサをしているかもしれない。
小声だったけど、「うそでしょ」「ショック」って話し声も耳に入ってきたし。
考えると心が重くなる。
でも、廊下で私を待ってくれている彼の姿を見たとき、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
私ってなんて単純なんだろう。
桜井心春
桜井心春
……お待たせ
西内蓮
西内蓮
ああ
一緒に帰れることがうれしくてニヤニヤしてる私とは対照的に、西内くんは無表情だった。機嫌が悪そうに見えなくもない。
どうしたんだろう、私、何かしたのかな。
でも、誘ってくれたのは西内くんだし……。
何を考えているのかわからないよ。
肩を並べて歩いているのに、二人とも口を開かなかった。
久しぶりに会って、話したいことはたくさんあるはずなのに、どうして言葉が出てこないんだろう。
そのまま階段を下りてげた箱まで向かう。
もう下校のピークが過ぎているのか、ほぼ誰もいなかった。
うわばきから革靴に履きかえてかがめていた身体を戻すと、すでに準備を終えていた彼と目が合った。
告白したときにも見たような、照れた表情。
西内蓮
西内蓮
ごめん、ちょっと緊張してる
その一言で、彼は機嫌が悪いわけじゃないと気づいた。
ドキドキしているのは私だけじゃない、西内くんもなんだ。
同じ気持ちだと分かり、ぐっと親近感がわいた。
桜井心春
桜井心春
私もだよ、西内くん
にっこりと笑いかけると、彼はほっとしたように笑った。
一緒に昇降口を出る。
さっきよりも、ふたりの距離が近くなっている気がした。
西内蓮
西内蓮
桜井は優しいな
歩き始めると、西内くんのほうから話しかけてきた。
桜井心春
桜井心春
えっ?
西内蓮
西内蓮
転校生、しかもあんな個性的な人に話しかけるなんて、誰にでもできることじゃない
桜井心春
桜井心春
そんな、たいしたことじゃないよ
西内蓮
西内蓮
たいしたことだよ
桜井心春
桜井心春
……ありがとう、西内くん
西内くんは私をほめたけど、白鳥くんに『なんでも聞いて』と言った彼も優しいと思う。
ふたりで白鳥くんに話しかけたから、こうやって一緒に帰ることができたのかもしれない。きっかけをくれた白鳥くんには感謝しなきゃな、と思った。

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