──三十分ほど電車にゆられて、私たちは目的地へと到着した。
駅を出て十分ほど歩くと、とてもオシャレな商店街が見えてきた。
ゆるやかな坂がまっすぐに続き、その両端には白い洋風の建物が立ち並ぶ。
一階の入り口にはカラフルな日よけや看板が設置されている。大げさかもしれないけど、まるでヨーロッパの街並みみたいだ。
西内くんは照れくさそうにしている。
もしかして、お気に入りの場所を私に紹介したかったのかな……?
そうだとしたら、すごくうれしい。私も、今度西内くんにお気に入りのドーナツ屋さんを紹介したいな。
お互いの好きなものを共有し合って、少しずつお互いのことを知っていく。
そうしていくうちに、共通の好きなものや趣味ができていくのかもしれない。
考えるだけで楽しい気持ちになっちゃう。
西内くんは優しく微笑むと、私に手を差し出した。
これって……もしかして?
ドキドキしながら、西内くんの手に自分の手を重ねた。
西内くんの大きな手のひらに優しく包まれた瞬間、胸がいっぱいになった。
西内くんのことが好きって気持ちが大きくふくらんで、息をするのも苦しい感じがする。
手を通じて、このドキドキが伝わったらどうしよう。
意識しちゃって、西内くんとまともに顔を合わせられない。
ごまかすように、いろんなお店の看板を見ながら歩いた。
商店街には洋服、雑貨、本やスイーツなどたくさんのお店があった。
西内くんは本屋さんで小説や参考書などを何冊か買っていた。
私は雑貨屋さんでは可愛いヘアピンを見つけて、ひとつ買うことにした。そのお店はスマホケースが売られていて、西内くんは何種類か手に取って見ていた。
新しいスマホケースがほしいのかな?
いつかおそろいで持てたらかわいいかも、なんて彼の隣で考えていた。
ある程度坂をのぼったところで、テラス席のあるレストランを見つけた。
西内くんの言った通り、内装もメニューも街中で見かけるような洋食屋さんだった。
私はナポリタン、西内くんはオムライスを注文した。
料理が運ばれてくると、西内くんは目をキラキラ輝かせていた。
唇をきゅっと結ぶ西内くん。
ちょっとすねているのかな?
そんなところもまたかわいいんだけど、口には出さないでおこう。
西内くんのことは常にかっこいいって思ってるけど、本人に言ったことはないかも。
今言うとフォローっぽくなっちゃうし、照れくさいから、今度伝えてみようと思った。
フォークを手に取って、パスタを巻こうとしたとたんに緊張しはじめた。
思えば、西内くんと一緒にご飯を食べるのははじめてだ。
向かい合って座る機会もほとんどない。
整った顔が目の前にあるってだけで、肩に力が入っちゃう!
きれいにご飯を食べる子だと思われたくて、いつも以上に丁寧にパスタを巻いて食べた。
──ご飯を食べている間は、学校や趣味など、いろんな話をした。
西内くんが話題を振ってくれたおかげで、少しずつ緊張がほぐれていった。
一番印象に残ったのは、ペットの話。
西内くんがペットを飼っているなんて知らなかった。
いつか会ってみたいな。
黒猫といえば、一年前に近所の公園でケガをしていた黒猫を助けたことがあった。
首輪に住所が書いてあったから飼い主のもとに届けられたけど、もしお家がわからなかったらうちで引き取っていたかもしれない。
あの子、今も元気にしているといいな。
そして、一番盛り上がったのは遠足の話だ。
相づちを打ちつつも、西内くんが遠足を楽しみにしているのはちょっと意外だった。
学校で遠足についての決めごとをしているとき、男子は全体的に騒がしかったけど、西内くんは静かにしていたもの。
感情をあまり表に出さない人なんだね。
西内くん、始業式以降も白鳥くんのことを気にかけているんだ。
彼の優しさに心がほんわかしたひとときだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!