「あなた、僕、引っ越すことになったんだ」
それはあまりにも唐突なことで、私からしてみれば青天の霹靂なんて言葉では済ませない話だった。
「引越し……?」
「うん、だからもうあなたには会えなくなっちゃうんだ」
「…やだ、私、はるくんがいなきゃ…」
「大丈夫だよ」
「でも」
「僕、高校生になったらあなたのこと迎えに行くから。絶対に迎えに行くから」
私ははるくんのそんな真剣な目を見た事がなくて、今でもよく覚えている。
「はるくん、私待ってるから」
「うん、大好きだよ、あなた」
その時のはるくんの笑顔だって、仕草だって、体温だって、全部全部覚えていて。
その後に触れた唇の感触だって、はるくんの赤らんだ顔だって、私しか知らないはずなのに。
ねぇ、はるくん。
「あなたは僕のお姫様だよ」
そう言って笑った日も
「バレンタイン、本命は僕?」
なんておどけて言っていた日も
「また明日ね」
って私に手を振った日も
私だけを見ていたはずなのに。
どうして、ねぇ、どうして?
「はるくん……っ」
溢れる涙が視界を歪めていく。
手元に落ちたスマートフォンはぼんやりと暗い室内を照らしていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!