「あぁ、好きだな」
そんなことを思ったのは最近始まったことではなくて、私が物心ついた頃からずっとついて回ってきた感情。
きっとこれ以上人を好きになることなんてない、と幼いながら思っていた。
「あなた」
そう私の名前を呼ぶ声がいつだって聞こえる気がしていた。
「ねぇあなた、ニュース見た?」
「見てないけど……何かあったの?」
私が教室に入るなり奇声ともとれる声を発しながら向かってきた友人を避けながら席に着いた。
「婚約したんだって!」
「誰が」
「北原財閥のイケメン御曹司、北原春樹!
確か同い年だったと思うんだけど〜」
頭が真っ白になった。
「ねぇ、どういうこと?」
「私も驚きすぎてちゃんと見てないんだけどさ、婚約したらしいのよ、議員の娘と」
「議員の娘?」
「ほらあの人、最近話題の宮原大臣って人。
その人の長女らしいんだけど、だからネットだと金目当て〜みたいなことも言われてて」
「それ、ほんとに相手ははる……北原春樹って人なの?」
「そんな驚くなら見せてあげるよ、記事。
高校生同士の政略結婚なんてダメだろって凄い叩かれてるから」
梓がそう言って私に見せたスマホの画面には細かな字で親からのコメントだの世間からのバッシングだのがごちゃごちゃと書かれていた。
「……相手の名前ってわかる?」
「宮原結乃って人らしいよ。
議員の娘のお嬢様っていうことと学校以外にはほとんど情報は出てないらしいけどね」
「学校?」
「名前は忘れちゃったんだけど訳わかんないぐらいのお嬢様高校でさ。
共学なんだけど、通ってるのはそれこそ議員の娘とか、大企業の息子とからしいよ」
そんなことを話している間に予鈴がなり、担任が入ってきて出席をとり、誰も真面目にやらないホームルームが終わり、授業が始まり、昼食をとり……。
そして、また1日が終わった。
「ねぇあなた、大丈夫?」
梓が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「何で?」
「いや、なんか元気なさそうだったからさ」
実際元気が無いのは事実なのだけれど、梓にこれ以上迷惑を掛けるのも嫌なので適当に誤魔化して笑った。
もしも北原春樹が、はるくんが誰か他の女の人のものになる、そう考えただけで辛くて、苦しくてどうにかなってしまいそうだった。
「好きだよ」
なんてそんな甘い言葉を少し欲した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。