「話って何?」
屋上に連れてこられるなりそう聞いた
「あなたが好きだ」
唐突に、ハッキリそう言われた
綺麗な瞳が真っ直ぐに私を映す
「彼氏いるんだろうけど、今のお前は全然幸せそうじゃない。
俺なら、俺だったらお前を幸せにできるから。
俺と付き合ってください」
そう言って日下部くんが手を差し出す
私はその手を眺めてから、
屋上の柵に寄りかかって話し始めた
「私ね、今の彼氏と付き合う前は、彼氏のこと嫌いだったの」
出した手を名残惜しそうに戻してから、
私の隣に来て座った日下部くんを横目で見て話を続ける
「毎回毎回用もないのに私の所に来て、一方的に話して帰ってく」
・
「また来たんですか、先生」
『俺もぼっちだからさ』
『今日俺のこと好きな女の先生と飲みに行くんだよ、だりぃ』
『学校の近くにカフェできたの?ねえ?ねえ?俺もうオッサンだから分かんねえよ〜』
・
「何も返事しなくたって、勝手に話を続けるの」
授業サボって屋上で音楽聞いてたり、
保健室で寝てたりしてると必ずエイジは来た
『お前もぼっちなのか』って
別に友達はいるし毎回毎回来るのがうざくて
「うっとうしい」
って本気でキレた時もあった
でもエイジはシュンと縮こまるんじゃなくて
『やっと感情出したな』
そう言ってにこっと笑ったんだっけ
その言葉にびっくりして、
だけどうっとうしかったのは本当で
避けたり逃げたりしてたけど
顔を見ないと何故か心配になって
いつしかエイジの授業だけはちゃんと出るようになった
顔を見たくて、会いたくて、でもこの気持ちがどういう感情なのか分からなくて
『俺、あなたのことが好きだ』
そうエイジが真剣な顔をして言ってきたときにやっと分かった
これは恋なんだって
でも教師と生徒の恋なんて結ばれない
諦めようとしたけど
『俺がお前を幸せにしてやるよ』
って自信たっぷりに言うエイジがおかしくて
この人ならバレたって大丈夫かもしれないって、
そう思ったんだよ
知らないうちに涙が溢れていた
ボロボロと零れる雫が、
屋上から3階下のコンクリートに落ちていく
「私の彼氏、この学校の教師だったの。
1年生の時から付き合ってて、だけど学校側にバレちゃって、教師を辞めちゃって。
私のお父さんとお母さんに付き合ってること認めてもらおうって許可取りに来たら、2人が堂々とデートできるようになるまで会わないでほしいってお父さんに言われて、その日から彼氏と連絡取れてなくて」
声が震えても、
日下部くんは何も言わずに黙って聞いてくれている
「連絡取るなとは言われてないから、私何回もLINE送ってるし電話もしてるけど全然反応くれなくて。
他に好きな人できてんじゃないかって考えるときもあるんだけど、でもやっぱり私は彼氏のことが好きで」
ダメだった
1番伝えたい言葉を言う前に、
涙がどっと溢れてとても話せる状態じゃなかった
日下部くんも前みたいに抱きしめてはくれない
まあ、抱きしめられたら今度こそ振りほどくんだけどね
「だから、私は日下部くんとは付き合えません、ごめんなさい」
そう言って頭を下げた
手も、足も震えて
立っているのが辛かった
日下部くんは一言
「キスしてごめん」
そう言って屋上から去った
文化祭の片付けで賑わう声が遠くから聞こえる
私の嗚咽をかき消してくれるからちょうどよかった
「あなた」
あまりにも戻って来ない私を心配して、
レミが屋上に来てくれた時にはすでに1時間が経過していた
私の涙は止まることを知らず
「泣かせて、」
私はそれだけ言うとレミの胸の中で泣き続けた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。