第29話

『幸せにするから』
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2019/04/29 10:13
私の嗚咽に混じって、エイジの声が聞こえた















開かずの部屋の窓を見ると、
綺麗な赤髪でスーツを着たエイジが立っていた















「……エイジ?」




私がそう聞くと、コクリと頷く



少しずつ、少しずつエイジとの距離を縮めてそっと頬に手を添える



綺麗なサラサラとした赤髪



目にかかる長い前髪



その隙間から覗く切れ長の目には、
私が映っている



スッと伸びた鼻筋



ぷるぷるの唇















本物のエイジだ…っ!















私はまたうるうると目に涙を貯めて、
エイジにぎゅっと抱きついた



エイジの匂いと、ほんのりとする煙草の匂い



ぎこちなく私に回されて、
ぎゅっと抱きしめ返す腕の優しさ、力加減



全てがエイジそのものだった




「……大好き、ほんっとに大好き。
もう私から離れないで、いなくならないで」




泣きながら懇願する



エイジは優しく私の頭を撫でると




『長い間1人にさせてごめん。
これから先はずっと俺が隣にいるから、あなたもずっと俺の隣にいて』




そう言って私と目線を合わせる




「……っ、当たり前じゃん!」




色々聞きたいことも、怒りたいことも、したいこともいっぱいある



でもそんなことは後回し



やっと会えたんだから、2年ぶりに



ずっと空っぽだった私の心を満たして



エイジでいっぱいにして、
私をエイジの罠から抜け出せないように



溢れ出る私の涙を掬って愛に変えて



もうこれ以上泣かなくて済むように




「愛してる、ずっと、ずーっと」




私がそう言うと、
エイジは少しだけうるっとした瞳で私を見つめて




『俺も愛してるよ、あなた』




そう言ってゆっくりと唇を重ねた



久しぶりのキスの感覚



優しいキスが、だんだんと深く、甘くなっていく



上唇を舐めたら口を開けろ、という合図



忘れるわけないでしょ



でもそんな激しいキスもいいけど




「今日はずっとキスしてて」




少しだけ唇を離すとそう言って、
またエイジにちゅっとキスをする



この温もりを離したくない、忘れたくない



唇を離したくない



ぎゅっと後頭部を引き寄せると、
エイジは私を壁につけてずっとずっとキスしてくれた















『この箱の中身、見た?』




エイジが私に聞く



そういえば箱もあったんだ、
手紙に感動しすぎて忘れちゃってた




「まだ見てない、てか、いつの間にここに入ったの?」

『今日の朝早く』

「不法侵入でしょ」

『元教員だしいいだろ』

「まったく」




いつになってもエイジは子供



そこらへんの悪ガキがやりそうなこと、
にひっと笑ってやっちゃうんだから



そんなとこも愛しいなんて、ほんと重症




『あなた、こっち来て』




そうエイジに言われて、
エイジが座っている横の椅子をポンポンと叩かれる



私は素直にそこに座る




『こっち向いて』




私がエイジを見ると、
エイジは床に片膝をついて、片膝は立てている状態



いわゆる王子様がやりそうなカッコだった




『2年も待たせた、辛い思いさせたし、たくさん泣かせた。
でもずっと俺を待っててくれてありがとう。
見捨てないでくれてありがとう。
離れてる間、あなたがいなかったから俺気が狂いそうだった。
それくらいあなたのことが好き、愛してる。
これからは絶対1人にさせない、だから














俺と結婚してください』




その言葉と同時に手紙と一緒に置いてあった箱を開けるエイジ



中にはキラキラと輝く指輪が入っていた



もう、何回泣かせんだよ



どれだけエイジを好きにさせるの?



答えなんか決まってるじゃん




「はい、お願いします」




そう言うと、
エイジの顔はぱあっと輝いた




『よっしゃ、よっしゃあああ!!』




おまけにそこらへんでぴょんぴょん飛び跳ねている




「エイジ!」




私が呼ぶと嬉しそうにこっちを見る




「指輪、はめて」




私が左手を差し出す



エイジはにこにこの顔のまま、
私に寄って来て指輪をはめてくれた



私はその左手をじーっと眺める




『あなた』




急に名前を呼ばれて、
ふっとエイジを見るとさっきより何倍もかっこいい顔に戻って




『幸せにするから』




一言、そう言った

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