前の話
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人が少ない図書室で必ずいる男の子。
毎回同じ席に座って毎回違う本を読んでいる。
毎日ここにいるなんて相当暇か読書が好きなのかな。
その男の子に声をかけてみた。
無反応。
図書室で会う度話しかけてみる。
でも、本に夢中なのか話すことが嫌いなのか無反応。
そんなに無反応なら逆に何をしたら反応するのかそんなことを考えていた。
ある日その男の子にいつものように話していると、無意識に愚痴を吐いていた。
でも、何一つ嫌な顔していなかった。
まさに無反応。
次の日もその人に愚痴を吐いてみた。
その次の日も。
その人はただ無反応で本を読んでいた。
ある日その人が初めて口を開いた。
「なぜ僕に愚痴を吐くの」
怒っているわけでも困っているわけでもなく、嫌がってるわけでもない。無表情。
それが1番合うだろう。
それでも一応聞いてみた。
「ごめん。嫌だった?」
「別に。ただ、愚痴を吐くって信頼出来る人にしかできることじゃないでしょ」
「うーん。君なら上手に流してくれそうだなって」
「なんも反応しないですけど、それでもいいですか」
「だからいいんだよ。君がいい」
君はふうんと言った表情で本に目を戻した。
無反応でいい。むしろ無反応がいい。
妙な同情とか、否定とかそんなの無くていい。
自分の今ある内の不要物を体外へ出したい。
それだけで十分だ。
君に話しかけてから半年ぐらいして
今の最大の内に秘めた不要物を君に向けて出した。
『好きな人が出来たんだ。
その人の笑顔が大好きで優しくて-』
君はどうするだろう。どんな顔をするのだろう。
反応するのかな。してしまうのかな。
『-かっこいい男の子なんだ。』
「…」
君はただ本を見つめて、目で文字をなぞっていた。
無反応。
なぜか自分の視界が歪んで、図書室や君がぼやけて行った。
堅苦しい世界が溶けて行くような、そんな気がした。
君は少しして、涙に気付くと君は言った。
「なんで泣くの」
涙のはずが分からないはず無いだろう。
『女の子に産まれたかった』
「そっか」
泣きじゃくる僕を目の前に君は本へ目を戻した。
まるで何も無かったかのように。
笑えてくるほど、苦しいほど君は-
-無反応だった-
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!