第86話

隠れた思い
2,292
2020/08/02 13:15
藤井side
適当に着替えて適当に帽子をかぶってマスクして
車に乗った。

もう二度と来ないと思っていた
もう二度とこの道を使わないと思っていた
望が生きていた時に使っていた
望に会いたい時に使っていた
道にまた車を走らせているのに
違和感があった。
まだ、生きてるんかなって…思ってまう。


窓から病院の名前が見えてきて
左折して車を駐車場に止めて
病院に入る。

もう二度と入らない、必要ないと思っていた病院。

受付で俺の名前と先生の名前を告げたら
直ぐに先生が来てくれた。

医師「電話した者です。藤井さんですよね?」
藤井流星
藤井流星
はい!藤井です。
それで、荷物は…?
医師「こちらです。笹もそのままにしてあります。それと…」
急に黙ってしまった先生。
先生の顔を見ればちょっと涙を浮かべていた。
藤井流星
藤井流星
先生…?
医師「すみません。本来医者は患者に特別な思いを持ったら行けないものなのですが…。
小瀧さんは私達医者と看護師に勇気と希望を
与えてくれた素晴らしい患者の1人で
何とかしてでも必ず助けたいって…救ってみせるって思ってた患者の1人で…。
なのに…こんな形にになってしまって…
本当になんて言ったらいいのか…。」
そう言って先生は俺に頭を下げてきた。
藤井流星
藤井流星
頭を上げてください。先生。
望は…もうこの世にはいませんが
俺らの心の中に必ず居ます。
俺らは先生に感謝してます。
望のあの笑顔を守ってくれて…。
俺らが来れない時でもずっと傍に
居てくれて…もしかしたらきっと
話し相手になってくれてたんじゃないですか?
頭を下げるのは寧ろ俺らですよ。
先生、ほんまにありがとうございました。
医師「いや、そんな…。
僕もまだ仕事があるのでこれで失礼します。
お気を付けてお帰りください。」

そう言って先生は駆け足でこの場を去った。
俺も望の荷物を持って車を停めている場所に向かった。
本来ならそのまま車を走らせるけど
今日は望の荷物が気になって
車の中で直ぐに望の荷物を見ることにした。

病院の名前が書かれた袋からガサゴソと荷物を取り出し
中から笹付きの短冊と分厚い日記帳と写真と…
藤井流星
藤井流星
望…。
俺が6周年の時にあげたミサンガが入っていた。
皆色違いで持っている。俺も財布の中に入っている。

分厚い日記帳を見ていいか迷ったが
俺らが見なきゃあかん気がして
分厚い表紙をめくった。
表紙には望の字で「虹日記」と書かれていた。
あえて闘病生活とか書かないところが
望らしくて少し笑えてしまう。

恐る恐る1枚目からじっくり見ていくことにした。


〈闘病生活 1日目〉
入院最初の不安な俺を安心に変えたのが
メンバーやった。
最初は濵ちゃんと一緒に病院に来たけど
後からメンバーが来てくれて
頑張れよって背中を押してくれた。
俺もこの先ずっとみんなと一緒に虹を架けたいから
俺、頑張るな。
明日は検査らしい。怖いな…。
〈闘病生活2日目〉
朝から検査。
嫌な予感しかしないのは気のせいやろうか。
もし、今回の結果があかんかっても
俺は必ず勝って、また歌う!また踊る!
バカする!
みんなとまた笑いたい。
検査は思ったより疲れて
終わった頃にはヘトヘト。
看護師さんもそんな俺に合わせて
歩くペースを合わせてくれた。
申し訳なくて謝ったら
これが私の仕事なので気にしないでと
言ってくれた。
夜に濵ちゃんに電話した。
検査結果聞くのが怖いって言ったら
どんな結果でもそばに居るよって
言ってくれた。
その言葉だけでなんだか安心した。
〈闘病生活 4日目〉
昨日は一昨日の疲れでずっと寝てた笑
そして今日、ついにその結果が分かる。
結果は思ったより早く進んでるらしい。
余命宣言もされた。
俺はいつになったら
また皆と一緒に歌えるんやろうか。
俺は、どうしたらええんやろか。
この先、どうなるんやろう。
今が1番大事な時なのに…。
俺何してるんやろう。
新たな夢に向かって進んでる時に限って
こんな病になるなんて。
もっともっと皆と一緒にいたい。
もっともっと皆と同じ景色見たいねん。
10年、20年、その先もずっと
このメンバーと一緒に居たい。
この7人でトップ取りたい、てっぺん取りたい。
…やけど、そこに俺は居るんかな。
〈闘病生活 5日目〉
今日は俺抜きの歌番組。
いつもやったらしげとか照史が居らんかったけど
今日は俺が居ない。
俺が居ない音楽番組はいつも以上に違和感。
まぁ、誰が居なくても違和感なんやけど。
いつもの「ええじゃないか」も
本来なら俺は流星の隣で同じポーズを
するんやけど、今回は流星はしげの隣で
流星がしげと同じポーズをしていた。
君へのメロディーも俺のパートは神ちゃんが。
違和感なんや。全てが。
それは多分、歌っている本人が思っとる。
顔に出とるで?皆。
でももし、こんな未来が来るのなら…。
俺が居ないWESTの時代が来たら
こんな感じになるんやろうか。
なんか、なんやろ。
俺だけ過去の人間で、皆が未来の人間見たい。
遠くに行きそうで、怖かった。
遠くに行かれそうで、怖かった。
〈闘病生活 7日目〉
神様は意地悪だ。
苦しくたって
辛くたって
挫折したって
泣いたって
待ってくれてる人のために
俺はやるべき事をやったのに
神様は意地悪だ。
必ず戻って、必ず皆でてっぺん取って
最高の人生を送るはずやったのに。
俺はどうやら長くないらしい。
俺はどうやら生きられないらしい。
今日1番メンバーの顔が離れなかった。
俺が死んだら、
ジャニーズWESTは続くんかな。
ジャニーズWESTは夢を叶えてくれるだろうか。
ごめんな、俺
ジャニーズWESTに居られないらしい。
ごめんな、俺
みんなと夢叶えられないらしい。
ごめんな、俺
みんなと居たらあかんらしい。
本当はもっと一緒にいたいのに
大好きな人やから。
この人たちと見たい景色があるのに
神様はそれを許してくれなかった。
なぁ、神様。
まだ皆と一緒に居たいって思うのは
俺のわがままなんかな。
目を閉じたら皆の声が聞こえてきた。
そのまま少し寝た。
次に起きたらしげの声が聞こえた。
幻聴かなって思ったらほんまに来てたらしい。
俺の日記帳の裏に濵ちゃん、流星、しげが
言葉を書いてくれた。
嬉しくて涙が溢れた。
次に俺がドッキリしかけたろ。
3人が気が付かないようなところに
俺も書いとこ笑笑
〈闘病生活 25日目〉
もう分からなかった。
何のために生きているのか。
日に日に弱っていく自分に腹が立って
最終的には夢まで分からなくなった。
もう分からなかった時、
久しぶりに神ちゃんが来てくれた。
どうやら、仕事前らしい。
少し言葉を交わしただけで直ぐに仕事に行った。
それから窓見たりぼーっと過ごしていたら
携帯が鳴った。
送り主は神ちゃんで、動画が送られてきた。
しげ、濵ちゃん、神ちゃんが
それぞれ楽器の前に立って間違っちゃいを。
そして次に送られてきたのは皆からの
メッセージやった。
どれも心に残ったけど
やっぱり1番心に残ったのは流星のやった。
シンメの流星の言葉が1番心に残った。
そして今日ら新たに夢が出来た。
東京ドームでterrible歌う。
〈闘病生活 35日目〉
今日は俺らのデビュー記念日!!
久しぶりに7人揃った!!
絶えない皆の笑い声と話に俺も笑顔が溢れた。
しげのイタズラ、流星の天然
個人の仕事、新しいシングルにアルバム。
お酒を交わしてケーキも食べて。
夜まで話した。
メンバーの声は弱っている俺の心を
強くしてくれて、安心材料になっていた。
求めてしまう、メンバーの声。
止まらないでと願ってた。

流星からくれたミサンガ。
大切にしなきゃ。
また1つ、宝物が増えた。
〈闘病生活 57日目〉
神ちゃんの誕生日!
神ちゃんに渡したい物があったから
病院に来てもらった。
神ちゃんの顔みたら安心した。
無事に神ちゃんの誕生日一緒にお祝いできた。
なぁ、神ちゃん。
俺、神ちゃんの誕生日お祝い出来たで?
幸せ?
神ちゃんなら素敵な1年過ごせると思うから
ここには俺の願い書いとくね。
神ちゃんにはずっと笑ってて欲しい。
27歳だけじゃなくて、この先ずっと。
俺、神ちゃんの笑顔めっちゃ好きやねん。
歌もダンスも神ちゃんが作る曲も好きやけど
やっぱり1番は笑顔やねん。
俺のモノマネとか小ボケを神ちゃんが
笑ってくれると嬉しいねん。
やってよかったって思うねん。
やからその笑顔忘れずに毎日を生きてほしい。
俺が言える立場やないけど、
でも、ほんまやから。
俺の夢、希望、未来、よろしくお願いします。
俺のピンク空けといてな?
そして、俺の大好きなジャニーズWESTを
これからも守ってください。
辞めたら許しませんよ?笑
そして、藤井流星をよろしくお願いします。
流星は素直やないです。
ちゃんと見てあげてほしい。
流星は傷付きやすいです。
流星は抱え込みやすいです。
悩んでる時、流星はよく頭を掻きます。
頭を触ります。
頭をいつも以上に触りだしたら
流星の「助けて」サインです。
見逃さぬように見ててください。
話が逸れたね。笑笑
神ちゃん、お誕生日おめでとう。
幸せに。
神ちゃんのことが大好きな望より。
〈闘病生活 63日目〉
今日は七夕。
病院の至る所に笹が飾ってあり
色々な人がお願い事をそこに飾っている。
リハビリがてら車椅子を押しながら
病院内をウロウロして、子供たちがいる
部屋のところに来た。
子供たちの願いはほんまに可愛くて
どれも叶って欲しいものばかりやった。
一人の女の子と男の子に出会った。
2人も可愛いお願い事を短冊に書いて
笹に背伸びして飾っていた。
俺がそんな2人を見守った後
部屋に戻ろうと車椅子を来た道から戻して
車椅子を数回押した時、女の子が
数枚の短冊を俺の膝に置いた。
あ、書けってことかって気が付いて
その子に持ってくると言った後
紙の枚数と色を確認したら
運悪く、俺以外のメンバーカラーで…。
俺は各階に回って俺のカラーと
他の紙も増やして全ての短冊に
願いを書いた。
メンバーカラーにはメンバーのこと。
白色にはグループの事書いた。
みんな見てくれるかな?
後俺からのサプライズ気が付いたかな。
〈闘病生活 80日目〉
遂に来た。初めはそれやった。
心臓が痛い。
心臓の痛さで目が覚めた。
息がしにくい、呼吸ができない。
でもそれは案外直ぐに収まった。
七夕は終わったけど俺の部屋にはまだ
あの短冊がまだ飾ってある。
あの短冊に飾ってある願いが叶うまで
俺はまだ死ねない。死なない。
〈闘病生活 83日目〉
俺の誕生日前日。
日に日に感じる「長くない」
俺の心と頭を支配していった。
怖くなって、なんか甘えたくなって。
濵ちゃんに電話した。
ちゃんと声が出ていたか心配やったけど
届いてたらしくて濵ちゃんが皆を集めて
来てくれるらしい。
嬉しい。楽しみや。







日記はここまでやった。
涙で字がぼやけている所
悔しかったんだろう、紙がぐしゃぐしゃな所
全てに望の思いが詰まっていた。

気が付かなかった思いも、この日記で全て知れた。

遅かった。ただそれだけやった。
悔しい。後悔してる。

望はずっと抱えていた。
なのに望は俺らが来たら必ず笑顔で出迎えて。

きっと泣きたくても泣けなかったはずや。
もうちょっと一人の時間を増やしたら良かったのか。
それか、俺らがもっと望に寄り添えば良かったのか。


答えは両方や。
1人にさせてスッキリさせる方法と
俺らがそばにいて安心させる方法
幾らでもやり方があったのに
俺らはただ望が勝ってまた俺らの隣に
居ることしか見てなかった。

こんな未来になるなんて
誰もが見たくなかったし、信じたくなかったから。
藤井流星
藤井流星
ごめんなぁ…望…っ。
日記帳に新たな大きな雫が落ちた。

なかなかハンドルを握ることが出来なかった。

















重岡大毅
重岡大毅
LINEより
流星、今どこにおるん?
しばらく車の中で日記帳を抱きしめながら
泣いていたら、しげから連絡が来た。
藤井流星
藤井流星
LINEより
病院。望が入院してた病院に居る。
重岡大毅
重岡大毅
LINEより
何で?
藤井流星
藤井流星
LINEより
先生から連絡きてん。
望の部屋から荷物見つかったから
取りに来てくれないかって。
重岡大毅
重岡大毅
LINEより
取りに行ったん?
藤井流星
藤井流星
LINEより
取りに行ったで。
今から帰る。
重岡大毅
重岡大毅
LINEより
小瀧のその荷物ちょっと気になるから
流星の家行ってもええか?
藤井流星
藤井流星
LINEより
分かった。10分位で着くと思う。
重岡大毅
重岡大毅
LINEより
了解。

涙をふいてハンドルを握った。



























望が1番伝えたかった思いがわかるまで
後もうちょっと…。

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