私は、今日も歩道橋の上。
視点と同じ高さで燃える夕日は、あと少しでビルの向こうに消えてしまう。
ユラユラ、ユラユラ。
歩道を歩く人たちは影絵のよう。
私は、いつも歩道橋の上。
車道を走る車のライトがひとつ、ふたつと増えていく。
キラキラ、キラキラ。
まるで流れ星みたい。
あれからどれくらい時間が過ぎたのだろう。
つぶやく声は、夕焼けに浸された世界に溶けていく。
1カ月……それとも1年?
毎日はあっという間に過ぎ、もう時間の感覚なんて忘れてしまった。
まるで長い夏休みが続いているみたい。
制服姿の女子がふたり、笑い声をあげながら私の横に立った。
白シャツに茶色いチェック柄のリボン、グレーのスカートが夏によく似合っている。
よく見かける制服だから、近くにある高校の生徒なのだろう。
私が着ているのと同じセーラー服の生徒は見たことがない。
私の声は、ふたりには聞こえない。
気づかずにスマホで自撮りをはじめている。
撮り直すたびに、なにがおかしいのかお腹を抱えて笑っている。
私の声は、誰にも届かない。
ふいに上空が暗くなった。
見あげると黒い雲が夕焼けを飲みこんでいる。
最近の天気は不安定だ。
梅雨明けになれば、本格的に夏がはじまるんだろうな……。
女子たちが嘆くように空を仰いだ。
言葉とは裏腹に、はしゃぎながら女子たちは歩道橋をおりていった。
手すりにもたれ、歩道橋を歩く人を眺めてみる。
横断歩道は少し先にしかないので、この歩道橋を使う人は多い。
若いサラリーマン、買い物帰りの女性、幸せそうなカップル。
誰も私に気づかず、早足で通り過ぎていく。
雨はどんどん強くなり、もう夕日も雲に消されてしまった。
私は、ずっと歩道橋の上。
通り過ぎる人たちにとって私は透明人間。
スルスル、スルスル。
かんたんにこの体をすり抜けていく。
そばで声がして、思わず体がビクンと跳ねてしまった。
見ると、隣に立っていた青年が青いカサをさしている。
あ、よくここで見かける男子だ。
名前はたしか……ハル。
誰かと電話をしていることが多いから、今もスマホの向こうにいる相手に尋ねたのだろう。
手のひらをそっと広げてみる。
雨粒は、私の手を素通りしてコンクリートの地面にシミを作った。
横を見ると、彼はまっすぐに私を見つめていた。
驚く私にハルは首をかしげた。
質問に質問で返す私。
こんなこと……こんなことあるはずがない。
私のことを見える人なんていない。
だって……私はもう死んでしまったのだから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。