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第1話

第1話
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2022/12/26 04:00
私は、今日も歩道橋の上。
視点と同じ高さで燃える夕日は、あと少しでビルの向こうに消えてしまう。
ユラユラ、ユラユラ。
歩道を歩く人たちは影絵のよう。

私は、いつも歩道橋の上。
車道を走る車のライトがひとつ、ふたつと増えていく。
キラキラ、キラキラ。
まるで流れ星みたい。

あれからどれくらい時間が過ぎたのだろう。
実莉
実莉
あれから、っていつからのこと?
つぶやく声は、夕焼けに浸された世界に溶けていく。

1カ月……それとも1年?
毎日はあっという間に過ぎ、もう時間の感覚なんて忘れてしまった。
まるで長い夏休みが続いているみたい。
学生1
ねえ、夕日ヤバくない?
学生2
ヤバいヤバい
制服姿の女子がふたり、笑い声をあげながら私の横に立った。
白シャツに茶色いチェック柄のリボン、グレーのスカートが夏によく似合っている。
よく見かける制服だから、近くにある高校の生徒なのだろう。
私が着ているのと同じセーラー服の生徒は見たことがない。
実莉
実莉
ここから見る夕日、すごくキレイだよね
私の声は、ふたりには聞こえない。
気づかずにスマホで自撮りをはじめている。
撮り直すたびに、なにがおかしいのかお腹を抱えて笑っている。
実莉
実莉
夜になれば星も見えるんだよ
実莉
実莉
ふたりはどこの高校に通っているの?
私の声は、誰にも届かない。
学生1
ていうか、期末ヤバかったわ
学生2
まあ、言ってる間に夏休みだし
ふいに上空が暗くなった。
見あげると黒い雲が夕焼けを飲みこんでいる。
最近の天気は不安定だ。
梅雨明けになれば、本格的に夏がはじまるんだろうな……。
学生1
あ、雨降ってきたし
学生2
マジで? だるっ
女子たちが嘆くように空を仰いだ。
学生2
カサ持ってくるの忘れた
学生1
え、あたしもないんだけど
学生2
100均まで走るか
学生1
めっちゃ遠いじゃん。悲惨すぎ!
言葉とは裏腹に、はしゃぎながら女子たちは歩道橋をおりていった。
実莉
実莉
またね
手すりにもたれ、歩道橋を歩く人を眺めてみる。
横断歩道は少し先にしかないので、この歩道橋を使う人は多い。

若いサラリーマン、買い物帰りの女性、幸せそうなカップル。
誰も私に気づかず、早足で通り過ぎていく。

雨はどんどん強くなり、もう夕日も雲に消されてしまった。

私は、ずっと歩道橋の上。
通り過ぎる人たちにとって私は透明人間。
スルスル、スルスル。
かんたんにこの体をすり抜けていく。
ハル
ハル
最近、雨ばっかだな
そばで声がして、思わず体がビクンと跳ねてしまった。
見ると、隣に立っていた青年が青いカサをさしている。

あ、よくここで見かける男子だ。
名前はたしか……ハル。

誰かと電話をしていることが多いから、今もスマホの向こうにいる相手に尋ねたのだろう。

手のひらをそっと広げてみる。
雨粒は、私の手を素通りしてコンクリートの地面にシミを作った。
ハル
ハル
君、いつもここでなにしてんの?
実莉
実莉
え……?
横を見ると、彼はまっすぐに私を見つめていた。
実莉
実莉
あの……え? 私に話しているの?
驚く私にハルは首をかしげた。
ハル
ハル
カサがないの?
実莉
実莉
私のことが見えているの?
質問に質問で返す私。

こんなこと……こんなことあるはずがない。
私のことを見える人なんていない。

だって……私はもう死んでしまったのだから。

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