第3話

第3話
1,413
2023/01/09 04:00
そう、あの日にハルの声を初めて聞いたんだ。
実莉
実莉
花火大会のことを電話で誰かとしゃべってたよね?
ハル
ハル
え、そうだっけ?
実莉
実莉
そうだよ。ほら、ここのあたりで青いカサをさして……
ハル
ハル
思い出した。友達と電話したわ。ああ、聞いてたんだ?
実莉
実莉
あ、ちが……。盗み聞きしたわけじゃなくってね。たまたま近くにいて聞こえたっていうか……
しどろもどろで言い訳をする私に、ハルはクスクス笑った。
ハルが笑う姿を初めて見た気がする。
ぶっきらぼうに見えるのに、笑うと少年みたいにあどけないんだね。
自分でも気づいたのだろう、ハルは口元をキュッと引き締めた。
ハル
ハル
俺の名前はだ高室たかむろ遥翔はると。みんなハルって呼んでるからそっちで呼んで
実莉
実莉
あ、うん……
知ってるよ、とは言えずにうなずいてから3秒。
自己紹介をしていないことに気づいた。
実莉
実莉
あ、私は……実莉。山本やまもと実莉みのりです
ハル
ハル
俺は高校2年生だけど、そっちは?
実莉
実莉
私は……
私は何年生だったのだろう。
たしか同じ2年生だったような気がするけれど、毎日どんどん思い出せないことが増えている。

ハルのつけている茶色いチェック柄のネクタイを見つめる。
ブレザーは通学バッグに押しこめられているらしく、袖の部分が顔を出している。
私の高校は……男子は学ランだったと思う。

私の視線に気づいたのか、ハルは肩をすくめた。
ハル
ハル
もう夏服にしないといけないんだけど、俺、寒がりでさ
実莉
実莉
たまに同じ制服の子たち……。さっきも、その……
ハル
ハル
ああ、自撮りしてた女子だろ?
実莉
実莉
そう。あの、同じ……
ハル
ハル
同じ高校だと思うけど、たぶんあの子たちは1年生だろうな
実莉
実莉
……
ハル
ハル
そっちはセーラーか。じゃあ、男子は学ランだよな。うらやましい
実莉
実莉
あ、うん
久しぶりに誰かと話をしているせいか、声がうまく出てこない。
いつの間にかうつむいてしまっていた。
視線の先にハルの靴先が見えた。

そんなことより確認しなくちゃいけないことがある。
実莉
実莉
あの、もう1度聞かせてほしいんだけど
ハル
ハル
うん
実莉
実莉
私のことが見えている……んだよね?
ハルは空を確認してからカサをたたんだ。
ハル
ハル
雨、あがった。通り雨だったみたい
実莉
実莉
そう……だね
はぐらかされたみたいで不安になってしまう。
また視線を落としかけた私に、
ハル
ハル
ごめん
と、首を横に振るハル。
ハル
ハル
そんな顔しないでいい。大丈夫、ちゃんと見えてるから
実莉
実莉
でも、私は――
ハル
ハル
わかってるよ。君は幽霊なんだろ?

――そう、私は幽霊。


気づけば、この歩道橋の上でさまよっていた。

受け止めているつもりでも、人から指摘されると改めてショックを覚える。
うなずく私をハルはじっと見つめてくる。
ひょっとして……。
もう動くはずのない心臓がズキンと大きく跳ねた気がした。
実莉
実莉
ハルも幽霊なの?
だったらどんなにいいだろう。
ひとりぼっちだったこの世界に同じ幽霊がいてくれたなら……。

けれど、ハルは首を横に振った。
ハル
ハル
俺はただの人間。霊感が強くて、普通に見えちゃうだけだから
実莉
実莉
あ、そうなん……だ
目の前で太い境界線が引かれた気がした。
けっして越えられないふたりの間にある線に、希望は風船がしぼむみたいに小さくなっていく。
そうだよね。
誰ともしゃべっていなかったから少し期待してしまった。
ハル
ハル
別に物珍しくてしゃべってるわけじゃない。君……えっと、山本さんだっけ?
実莉
実莉
はい、山本実莉です
ハル
ハル
タメ語でいいよ
なぜか眉にシワを寄せたあと、ハルは肩で息をついた。
ハル
ハル
なあ、知ってる?
実莉
実莉
え?
ハル
ハル
人は死んだら空にのぼるんだって

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