そう、あの日にハルの声を初めて聞いたんだ。
しどろもどろで言い訳をする私に、ハルはクスクス笑った。
ハルが笑う姿を初めて見た気がする。
ぶっきらぼうに見えるのに、笑うと少年みたいにあどけないんだね。
自分でも気づいたのだろう、ハルは口元をキュッと引き締めた。
知ってるよ、とは言えずにうなずいてから3秒。
自己紹介をしていないことに気づいた。
私は何年生だったのだろう。
たしか同じ2年生だったような気がするけれど、毎日どんどん思い出せないことが増えている。
ハルのつけている茶色いチェック柄のネクタイを見つめる。
ブレザーは通学バッグに押しこめられているらしく、袖の部分が顔を出している。
私の高校は……男子は学ランだったと思う。
私の視線に気づいたのか、ハルは肩をすくめた。
久しぶりに誰かと話をしているせいか、声がうまく出てこない。
いつの間にかうつむいてしまっていた。
視線の先にハルの靴先が見えた。
そんなことより確認しなくちゃいけないことがある。
ハルは空を確認してからカサをたたんだ。
はぐらかされたみたいで不安になってしまう。
また視線を落としかけた私に、
と、首を横に振るハル。
――そう、私は幽霊。
気づけば、この歩道橋の上でさまよっていた。
受け止めているつもりでも、人から指摘されると改めてショックを覚える。
うなずく私をハルはじっと見つめてくる。
ひょっとして……。
もう動くはずのない心臓がズキンと大きく跳ねた気がした。
だったらどんなにいいだろう。
ひとりぼっちだったこの世界に同じ幽霊がいてくれたなら……。
けれど、ハルは首を横に振った。
目の前で太い境界線が引かれた気がした。
けっして越えられないふたりの間にある線に、希望は風船がしぼむみたいに小さくなっていく。
そうだよね。
誰ともしゃべっていなかったから少し期待してしまった。
なぜか眉にシワを寄せたあと、ハルは肩で息をついた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。