第60話

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218
2023/03/26 03:00
空疎くうそ
僕たちは───ッ…ごめんなさい、妖艶。
空疎が手を握りしめて震わせながらそう言う。
妖艶ようえん
空疎…?…裏切るのか!?
妖艶は大きく目を見開いて震えた声でそう言った。
空疎くうそ
ち、ちがッぼ、僕たちは───
空虚くうきょ
違う!空虚たちは裏切るんじゃない!!取り返すんだ!!あの頃の組織を!!
空虚が空疎の言葉を遮って妖艶にそう叫んだ。
妖艶ようえん
!?
空虚くうきょ
妖艶だって…薄々気づいているんでしょ!?最近の組織はおかしいよ!!どうして…ッどうしてそんな簡単に人を…仲間を切り捨てられるの!?
空虚がそう言うと妖艶はハッとしたような表情をする。
空虚くうきょ
空虚…そんなの嫌だよ…ッ!…だからそんな組織に空虚たちは居られない…!今の空虚たちにとって…この組織は悪でしかない!!そしていつか…取り返してやるの…ッ!施設の皆と一緒に楽しく過ごした頃の組織を!
空疎くうそ
空虚…ッあぁ、そうだ!だから妖艶、僕たちはもう戻らない。
空虚と空疎はそうハッキリ言い切るとしっかりと妖艶の目を見た。
妖艶ようえん
空虚…空疎…ッ
妖艶はなぜか安心したように微笑んだ。
妖艶ようえん
そうか…2人はそういう選択をしたのだな…。成長、したのぉ…ッ
妖艶はそう言うとポロリと1粒、涙を流した。私はこの3人の関係性を全然知らない、知らないけどこれだけは分かる。3人は家族のような関係性なんだって事だけは。
空虚/空疎
妖艶…ッ
2人はそうつぶやくと妖艶と同じように涙を流す。
空虚くうきょ
そうだ!妖艶も空虚たちと一緒に来たらいいんじゃない?
空疎くうそ
そうだな…!妖艶、僕たちと一緒に来ないか?
2人は「名案だ」とでも言うようにそう言う。
乙音澪おとねみお
そうね、私たちもまだ組織について色々と知りたいし…こっち側に来ると言うならば、しばらく保護するわよ。
師匠は2人に同意する意志をみせた。うん、私も賛成。こちらも情報が貰えるし、2人は妖艶と引き離されることはない。これは両方にとってWin-Winの関係なんじゃないかな?しかし、妖艶は私たちの予想とは全く違う返答をした。
妖艶ようえん
──無理じゃ。
みんな
!?
空虚くうきょ
妖艶!なんで…ッ
空虚が心底驚いた表情をしてそう聞いた。
妖艶ようえん
いや、"できない"と言った方が良さそうじゃな…
妖艶はそう言って視線を奥の方に送った。
妖艶ようえん
お主らも前見たじゃろ?任務に失敗した奴らがどうなるのか…
妖艶がそう言った瞬間、美琴さんはハッとした様な顔をして師匠にこう言った。
柊美琴ひいらぎみこと
そうか…襲撃…ッ!剣舞!忘却の様子は!?
すると、師匠もハッとしたような顔をしてすぐに耳に手を当てた。おそらく、忘却に連絡をとっているんだろう。襲撃…ッそうか、それがあったか…!
妖艶ようえん
恐らくもう近くまで来ているじゃろうな…
如月陽菜きさらぎひな
そんな…ッ
陽菜が落胆したような声を出す。
楠若葉くすのきわかば
で、でも!外で仲間が見張っているし、時間も経ってないからまだ大丈夫なんじゃ───
そうだ、前回は油断していただけで今度こそは簡単にやられたりしない。
妖艶ようえん
そこのお主。
妖艶は美琴さんの方を見ながらそう言った。
妖艶ようえん
お主らたちが妾の組織、「四面楚歌」の刺客を妾たち3人を守りながら突破できる確率は?
妖艶がそう尋ねると美琴さんは一瞬考える仕草をしたがすぐにハッキリとこう言った。
柊美琴ひいらぎみこと
極めて低いね〜まず、相手の人数や武器を把握してない時点で戦うのは危険すぎるよ〜
楠若葉くすのきわかば
そん、な…ッ
柊美琴ひいらぎみこと
しかも、この3人を連れて行こうが行かまいがまだ護衛対象が15人もいるしね〜
あ…そうか…!今渚さんがここにいないのは見張りをするためだけではない。人身売買の商品とされていた子供たちの護衛も兼ねているのか…!
柊美琴ひいらぎみこと
その子供たちを危険に晒すことは出来ないな〜
乙音澪おとねみお
そうね、襲撃があるとなれば話は別よ。私たちが1番に優先しないといけないのは子供たちの命。
美琴さんの後ろから師匠が出てきてそう言った。
柊美琴ひいらぎみこと
剣舞、忘却は?
乙音澪おとねみお
大丈夫みたい。もともと危険がないように離れたところにいてもらっていたし…でも、外で何人かが銃をを持って待機しているみたい。詳しい人数は不明よ。
妖艶ようえん
やはりか…
渚さん、無事でよかった…!でも、これで「四面楚歌」の刺客がいることは確定した。どうしたらいいんだろう…
乙音澪おとねみお
残念だけど…空疎、空虚…あなたたちも───
妖艶ようえん
いや、連れて行っておくれ。
師匠が空疎と空虚の2人にそういいかけた時、妖艶がそう口にした。
妖艶ようえん
たった…ッたったひとつだけあいつら刺客く方法があるんじゃ…
妖艶はそう言うと顔を伏せた。そして、大きく深呼吸をしてもう一度前を向いてこう言った。
妖艶ようえん
妾がおとりになる。
みんな
!?
皆が驚いた表情をする。
妖艶ようえん
あいつら刺客が狙っているのは妾とそこの2人。妾が囮になれば逃げれる確率は上がるじゃろう。
空虚くうきょ
ダメ、ダメだよ妖艶!!囮になるってことは…ッそれは────ッ
妖艶ようえん
"死ぬのと一緒のこと"じゃのぉ…
妖艶はそう言って笑みをこぼす。
空疎くうそ
ダメだ、嫌だ、嫌だよ…ッ!!妖艶、考え直せ!
妖艶ようえん
空疎…。残念じゃが、3人全員が助かる方法はもう残されておらぬ。妾だけが死ぬか、3人全員が死ぬか…じゃ。なら妾は2人に生き残って貰いたいのじゃよ。
妖艶はそう言って優しく微笑む。
空虚くうきょ
嫌だ…ッ嫌だ…ッいかないでよ…ッ!ずっと一緒にいてよ!
空虚が涙を流しながらそう言う。
妖艶ようえん
ふふふっ…お主らいつもは冷たいのに…そんなに…ッそんなに妾のことが好きなのか…ッ可愛いやつじゃのぉ…ッ
妖艶も肩を震わせて涙を流す。それと同時に空疎と空虚は妖艶の元に走り出して抱きつく。
空虚くうきょ
妖艶…ッ!!妖艶!!!
空疎くうそ
嫌だ…ッ嫌だッ!!妖艶…ッ!!
2人は妖艶の胸に顔を埋めてそう泣き叫ぶ。
乙音澪おとねみお
本当に…いいの…?
師匠は2人を抱きしめ、頭を撫でている妖艶にそう尋ねる。
妖艶ようえん
あぁ、もちろんじゃ。
妖艶はその質問にハッキリと肯定した。もう覚悟が決まっている表情だ。
乙音澪おとねみお
…ッ。分かったわ。虚構、叡智。脱出の準備を。
師匠は一瞬悲しそうに顔を歪める。しかし直ぐに何事も無かったかのような表情に戻り、2人に指示をした。
柊美琴ひいらぎみこと
…分かった。
如月陽菜きさらぎひな
うん…。
2人もなんとも言えないような顔をしている。私に…何か出来ることは無かったのだろうか。まだ抱きついてる3人を見てそう思う。3人にこんな心苦しい選択をさせてしまって…。せめて、今。今のわたしにできることを──。そう思い私は足を1歩踏み出した。

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