第22話

文スト×保育園ショタパロ ①
901
2020/10/29 16:10
「森先生ー!怪我しちゃったー‼︎」

「おやおや,だいぶ深い擦り傷だね。見てみようか」




「先生ー!」

「何だ?」

「森先生が先生の事,莫迦な銀狼だって云ってた」

「森先生…」

「私そんな事云ってない‼︎」

「信じられん」

「ギャアァァァァ‼︎」







『煩いですよ!子供ですか⁉︎』

「御免なさい…」

「ムス…」

『毎日そんな喧嘩ばかり…。』

「でも本当に云って無いよ⁉︎」

『………だってさ。本当なの?』

「っ……」

『…嘘?』

「だって…面白いんだもん…」

『だってじゃないよ。そんな事で嘘を使わない。嘘は,自分の必要な事にしか使っちゃ駄目』

「必要な事…?」

『そう。人間誰しも,嘘を付いた事が無い人なんて居ない。でも嘘は駄目な事なんだって。だから,必要な事以外は使わない』

「へぇー」

『判った?』

「判った!」

『はい,約束』

「指切りげんまん,嘘付いたら針千本飲ます!指切った!」

『はい,約束ね』

「うん!」





「済まないね,あなたちゃん」

『いいえ。』

「もう記録帳の目通しは終わったのか?」

『はい,終わりましたよ』

「流石だね」

『…………指切りって,子供が約束する時に云うものじゃ無いですか?』

「そうだな」

『指切りの歌詞って…子供が歌うには,残酷過ぎませんか?』

「「…」」

『嘘を付いたら,針を千本も飲ませられるですよ』

「…確かに,残酷だね」

「嗚呼。」

『…変なものですねぇ』





此の世には,普通の人間とは違った人間が居る。

其れは…"異能力"を持った人間達

種類も様々で,人それぞれ。

そんな力を持つ先生達,

森鴎外先生,福沢諭吉先生は一組担当。

尾崎紅葉先生と広津柳浪先生は二組担当。

与謝野晶子先生は保険医先生。

夏目漱石先生が園長先生。

元々子供達も,異能力者が此の世では少ない為

クラスも二つだけ。

皆色んな異能を持っているけど,仲良くしていた。

私も異能力者で,「眼給物悲メニタマルモノカナシケレ」と云う。

目で見た物を,色んな物に映し出す異能だ







「賢治,食べ終わったら直ぐに布団に入るんだぞ」

「はぁーい!」

「芥川君…一寸は食べようよ?」

やつがれは要りませぬ…」



「森先生!」



「はーい!」

「済みません…ナオミ殿が泣き止まぬので,如何したものかと…」

「お"に"ぃ"さ"ま"ぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

「おやおや,かなり泣いてるね〜」

「はい…」

「福沢殿〜」

「何だ?」

「ナオミちゃんを御願い!私は…」

「?」

「芥川君に少しでも食べさせる!」

「全く…」




少ないとはいえ,一つの組に二十人。

なかなかドタバタは止まらない…




『よーし皆!御昼寝だよ』

「「「はーい!」」」




合図をかけると共に,子供達は布団を並べる。




『銀ちゃん,顔の取らない?』

「嫌…」

『そっか。そう云うのしながら寝る人だって居るし,良いよね』

「あなた先生,絵本読んで下さい!」



夢野久作君が絵本を差し出してきた。

此れが何時もの日課。

子供達が寝る前に,必ず絵本を読み聞かせる

何時から始まったんだっけなぁ




『良し,始めるよ』

「「「はーい」」」






「一寸,福沢殿?」

「何だ?」

「ナオミちゃんを泣き止ますのに,何分掛かった?」

「兄弟で有る,潤一郎に合わせたら直ぐに泣き止んだ」

「なーんだ,手こずったかと思ったのに」

「手こずっても意味が無いだろう…余計な心配をするな」

「心配なんてしてませーん。面白がってるんですよ」

「面白がるな!」

「やーいやーい!」




『子供達が,寝てます。静かに。』




「「…はい。」」

『はい。』










こんな日常で有る保育園の中で,

私は気になる事がある。






『………今日も寝ないの?』

「…うん。」





保育園の玄関先のカーテンの裏に

此の時間は毎回此処に居る。

此の子は,太宰治






『…』

「ねぇ,あなた先生」

『何?』

「死ぬ,って何?」

『…』

「死ぬと,僕は天国と地獄…何方に行くと思う?」

『…』

「……今日ね,皆が僕を見てヒソヒソ云ってた。敦君や中也達じゃ無くて…もっと別の子…。」

『…そっか』

「嫌な気持ちになったんだ…。」

『……何で嫌な気持ちになったか,何でヒソヒソ云われるのか,判る?』

「…僕が気持ち悪いから」

『…其れは,ヒソヒソ云った子達じゃない。私は如何?』

「如何って…?」

『ヒソヒソと治君の事,何か云ってる?』

「ううん」

『其の子達は,治君の耳に聞こえる様に云ったんだったら,私は目の前で云ってる?』

「云ってない…」

『なら,私は違う。貴方を気持ち悪いなんて思った事ない』

「…本当…?」

『うん。』

「……そう。」






「あなたちゃん」





『はい』

「会議始めるよ」

『判りました。』





『会議行ってくるね。』

「待って,先生」

『何?』

「此れ,あげる」



彼の小さな手には,桜の花弁がいっぱいあった。



『綺麗な花弁だね』

「うん。」

『本当に良いの?』

「うん,あげる」

『有難う』

「…会議終わるまで,此処で待ってて良い?」

『……判った』












「お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」」





1日をやり遂げた後,子供達はぐっすり眠る。

保育園とはいえ,此の子達には家が無い。

家族も肉親も…

ほぼ孤児に近い。

けど,此の異能特務課によって作られた異能力者だけの保育園は

異能力を持つ子供達の,謂わば保護施設と成っている。




「あなた先生」

『はい?』

「ずっと待っていたらしいぞ。」




会議が終わって,渡された資料を片付けていたら

福沢先生に声をかけられ

何かと見ると,下には治君が居た。




『御免ね,遅く成って…』

「ううん。大丈夫」



そう云う彼の手は,少し震えていた。



『…そっかそっか。春とはいえ,まだ寒いもんね』

「…うん」



あえて気付かないフリをした。

きっと怯えていた。



「……ねぇ,先生」

『何?』

「僕,先生のお家行きたい」

『え?』

「此処より,先生のお家の方が静かだし…寝れると思うんだ…。」

『でも…』




「……園長先生に許可を得て,連れて帰ると良い」

「!」

『福沢先生…』

「…子供達が,少しでも前に進める事を選びなさい」

『………そうですね。』

「?…」

『治君,与謝野先生の処で待っててくれる?』

「…判った」










コンコンッ




『失礼します』

「如何したのかね?」

『許可を御願いしたいのですが…』

「何の許可を?」

『一組の,太宰治君を私の家で保護する許可です』

「…」

『彼が云いました。"先生のお家が良い"と。彼は子供離れした様な子です。子供との感性が違います…。少しでも,彼が前に進める様に,楽をさせてあげるのは良いことだと思います』

「……判った,許可しよう」

『有難う御座います。』

「明日は,ちゃんと園に来るように」

『勿論です。其れでは,また明日』
















「…!」

『帰って来たよ』

「あなた先生…!」

「おやおや,かなり懐いてるじゃないか」

『はい。懐かれました』

「…で,如何だったんだい?」

『許可は取れました。』

「!」

『治君,先生の家に帰ろう』

「うん…!」

「…なんだかねぇ…」










「先生のお家,此処から遠いの?」

『海の近くだよ。今日は雲が無いから,星が良く見えると思う』

「…ふぅん」




先生の家に着くと,海の音が綺麗に聞こえる場所だった。

潮風がとても心地良かった。



「…」

『良い処でしょ?』

「……うん。」

『お家入ろ。露台ベランダの方が落ち着くよ』

「判った』




先生は,御飯を作ってくれた。

先生が

『何でも良い』

と云ったから,わざと

「蟹…」

と渋々云うと,先生は本当に蟹を茹でて持って来た。



「美味しい」

『…』

「何?」

『あ,厭…家に誰かが居る事なんて無かったから…。楽しいよ』

「…僕も。」

『良かった!』

「うん」

『…治君は…』

「治で良い。」

『…治は,如何してそんなに包帯を巻いているの?』



先生はお酒を飲みながら聞いて来た。



「…痛いから」

『如何して痛いの?』

「…」

『………私は云おうかな』

「え?」



先生は露台に出た。

僕も後を追った。

先生は露台に着くと,煙草を出した。




「…先生,煙草吸うんだ」

『意外でしょ?…辞めてたんだけどねぇ…』

「…」

『…私だって,普通の人間じゃ無い。頭が狂う程の,過去は有る。』

「…頭が,狂う…」

『昔,裏社会で追われる身だったんだ,私』

「…」

『毎日毎日,銃を持った人から追われてた…』

「…」

『でも有る時,疲れちゃってね…死にたく成った。』

「!…」

『其の時の私を見つけたのが,夏目園長先生なんだよ』

「へぇ…」

『だから,あの保育園で仕事をしてるんだ』

「…」

『御免ね。こんな話聞いてても,判らないよね』

「ううん…」




僕は,先生の左手を握った。




「もっと,聞かせて?」

『………判った。』








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