「どうしたのって会いに来たんだけど…」
そう高梨くんは微笑む。
私たちはいつもどんな会話をしているのだろう。
どうしたらいつも通りになるのだろう。
私の中ではそんな不安がぐるぐるしてた。
ある日の放課後
部活のない日はいつも一緒に帰っているらしい。
「おまたせ、帰ろう」
「俺さ、美琴と一緒に行きたいところがあるんだけど、どう?」
「ここなんだけどさ!」
高梨くんのスマホに綺麗なイルミネーションが見える。
「そうだな、来週なんてどうだ?」
カップルっぽい。いやカップルか。
「ねぇ、。」
隣を歩いていた彼が私の手を握る。
「名前で呼んでほしいな」
「ふは、顔真っ赤!」
爽やかな笑顔でこちらを覗く。
今私すごい幸せ…。
そして、とうとうイルミネーションを見に行く日。
暗闇に赤や青、黄色など色とりどりに輝く。
少し寒いが心はずっとドキドキしてる。
「ほんと綺麗だな」
「美琴も綺麗だよ?」
こてん、と微笑みながら照れくさそうに言った。
「からかってない」
「…好きだよ、美琴」
あぁ、もう戻りたくない。
そういえば、迎えに来るって言ってたけどいつだったっけ。
まぁいいか。
私はこれからずっとここにいればいいんだから。
私の居場所はここなの。
「わーすごい!!」
「彼氏くんいいとこ連れてってくれんじゃんか!」
次の日、友達に昨日の写真を見せたのだ。
「いーなぁ、私も彼氏ほしいな!」
「今日も一緒に帰るんでしょ?」
「ひゃー!」
「着いてっちゃおうかなぁー?」
皆私を羨ましがる。
そして優越感に浸る。
なんて快感なんだろう。
放課後、いつものように高梨くんと下校する。
「うん」
いつも笑顔な高梨くんだが、今日は一段と暗い表情をうかべている。
「俺さぁ、約束を破る奴大嫌いなんだよね。………お前みたいなさぁ!!」
いつもこんなこと絶対しないのに。
怖い…。
「何泣きそうになってんだよ!お前が悪いんだからな!!!」
すると、怖い顔をしてた彼は急に満面の笑みで甲高い声を出しながら笑い始めた。
「きゃははは!!ばっかじゃねーの?!!」
どんどん景色がこの前の鏡の中のように白くなっていく。
そして高梨くんはドロドロとチョコレートのように溶け、あの双子の片割れになった。
後ろから物音がした。
そう思った
一瞬だった。
床には赤い液体。
胸にはナイフが。
どんどん痛くなくなっていく。
まだ、
まだ高梨くんと一緒にいたかったのに。
どうして………、
川村美琴
死亡。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。