第64話
63
時透無一郎side
あなたに酷いことを言ってしまったと気づいてからおよそ2ヶ月。
ある街で、だいぶ離れた所に僕があげた羽織を着ているあなたを見つけた。
隣には不死川さんがいたけど。
僕の事を苗字で呼んで敬語での話し方になっていた事なんてどうでもよかった。
あなたが僕のことをあきらめる、なんて言っていたけどまだその羽織を着ているってことは、と言った瞬間、
なんて言ってあなたは着ていた羽織を、お守りまで返してきた。
頭が真っ白になった。
なんて会話をしていた。
この羽織を着てくれればいいじゃないか。
息が白くなるほど寒いんだから。
鼻先も、指先も赤くなっているじゃないか。
不死川さんはちら、とこちらを見て何も言わずにあなたに手をひかれて離れていった。
僕は羽織から、お守りから目を離せなかった。
どうして。
どうして返す、なんて
そんなに苦しい表情で言ってくるんだ。
僕が頭に血が上って
「二度と話しかけないで」
なんて言わなければよかった。
言わなければ、あなたは不死川さんと一緒にいることもなかったのに。
この羽織も、お守りもあなたの匂いが染み付いている。
これは貸したんじゃない。
僕があなたにあげたものだと言うのに。
気づいたら屋敷に戻っていて自室であなたの香りがするその羽織とお守りを抱きしめていた。
心が、砕けそうだ。
時透無一郎side終了
本人視点に戻ります
実弥さんの手を引っ張って歩いていく。
ずっと実弥さんは無言だった。
これで良かったんだ。
嫌われてしまったものはもう仕方がない。
無理に話しかけてもらう必要なんてないんだ。
大丈夫。私は私の責務を全うする。
実弥さんが声をかけてきた。
立ち止まって
実弥さんが珍しく弱気な顔をしている。
すぅ、と自分の気持ちを押さえ込んで
自分に問いかけているようだ。
そんなことない。
私は「炎柱」だもの。
涙がこぼれそうになる。
けれど意地でも出してたまるものかと、
全ての気持ちに蓋をしよう。
辛いという感情が、出てこないように。
悲しいという感情が、零れてしまわぬように。
柱の責務を、全うする為に。
強くなる為なら、なんだってする。