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第1話

異世界王子と三次元フィアンセ
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2020/05/06 05:21
全ての不幸と幸福の始まりは、にい の15歳の誕生日のことだった。

パパであるモミジとママである まこ から、誕生日プレゼントとお祝いの言葉をもらい、家族3人で楽しいパーティーを開く。

──そこまでは、いつもの誕生日と変わらなかった。

誕生日パーティーの後片付けを終え、あとは寝る支度をするだけ、というところで、モミジと まこ が、にい に告げた、2つのこと。

高校に進学することはできない。

16歳の誕生日に、モミジと まこ が決めた相手と結婚しなければならない。

この2つは、15年間生きてきた にい の日常を壊すのに、十分なくらいだった。

~・~

時は流れ、にい は16歳の誕生日を迎えた。15歳の誕生日から1年経った今でも、にい の婚約者についての話は全く聞かされていない。それなのに、モミジと まこ は、なぜか楽しそうにしている。憂鬱な にい を置き去りにして。

「さ、にい ちゃん、そろそろ行くよ♪」

まこ は、今から鼻歌を歌いそうな勢いで話す。

「わかったわ……。」

憂鬱な気持ちを隠そうとしながら、にい は返事を返す。すると、まこ が突然、にい の手を握ってきた。見ると、いつの間にか まこ はモミジとも手を繋いでいる。

「マ、ママ??なんで今手なんか……。」

にい は、不思議に思って問う。まこ と手を繋いだのなんて、6年ぶりぐらいだ。

「気にしないで♪こうしなきゃ、行けないの……♪」

まこ は、何かを隠すような笑みを向けた。

すると、にい の次の言葉を待つことなく、まこ は首もとのリボン型チョーカーに触れた。そのチョーカーは、にい が16年間生きてきた中で、1度もほどいたところを見たことがない物だった。

まこ が、そのチョーカーをするり、とほどく。にい が次にまばたきしたときには、周りの景色が変わっていた。

「……へっ?」

突然すぎる出来事に、にい の口からは間の抜けた声が漏れた。

それもそうだろう。今まで家の中にいたはずなのに、急に家の外に出ていた上に、その場所がにい の行ったことがない場所だったのだから。

(ここ、どこよ……。建物とか人を見る限りだと、外国……かしら。ってか、なんであのチョーカーをほどくだけで、一瞬でこんなところに……!?)

何が何だかわからず戸惑う にい の様子を見て、モミジは軽く笑った。

「はははっ!まぁ、戸惑うのもムリないよね。ここが、今日から にい の暮らす、"レクリア"だよ。……ほら、にい の未来の夫がお出迎えしに来たようだ。」

("レクリア"……?そんな国、聞いたことないわよ。ヨーロッパ辺りにでもあるのかしら?)

今だ腑に落ちない顔をしながら、にい はモミジの指し示した方を見た。するとそこには、とてつもない美青年が2人並んでいた。

そのうちの1人が、口を開く。

「初めまして。あなたが、にい さんですね?わたしはカイ・サファー。隣にいるのが、わたし付きの執事、カエデ・フォレスです。末長くよろしくお願いしますね、にい さん。」
カイはそう言って微笑むと、にいの左手を取り、薬指の付け根に軽くキスをした。

突然のカイの行動に驚き、にい は動くことも声を出すこともできなくなる。

(き、急になんなの、この人!!恥ずかしげもなく、手にキスなんて……!)

すると急に、にい の隣に立っていたモミジが、大きな声をあげた。

「お久しぶりです、兄様……!」

そういい、カエデに抱きつくモミジ。カエデは、無表情のままの様にも見えたが、よく見ると、口元は軽く微笑んでいた。

「久しぶりですね、モミジ。元気でしたか?」

その一連の流れを見て、にい は思う。

(兄様……ってことは、パパとフォレス さんは兄弟ってこと!?じゃあ、フォレスさんはわたしのおじ様になるわけで……?もう、何から何までわからないことすぎて、頭がついていかないわ。)

そんな にい の心情を察したのか、カイが優しく声をかけてきた。

「にい さん、あちらは久しぶりの再会に浸りたいでしょうし、わたしたちはどこか出掛けましょうか。今日は結婚式なので、国中でお祭りが開かれているんです。レクリアに来るのは初めてでしょうし、案内しますよ。」

「え、えぇ……。」

にい は、カイの笑顔に流されるような形で、返事をした。

~・~

カイと一緒にお祭りを回るうちに、色々なことを聞くことができた。

ここが異世界であること。カイがレクリアの王子だということ。そして、今日カイと結婚式を挙げ、王妃にならなければいけないこと。結婚式で渡される指輪で、地球と異世界の行き来が可能になること。

レクリアが異世界だとわかっても、にい はさほど驚かなかった。まず、ここに来るときの手段がチョーカーをほどくだけ、という時点で、イレギュラーだとは薄々感じていたからだ。

──今は、結婚式の真っ最中。指輪交換を終え、誓いの言葉が始まるところだった。

「カイ・サファー。あなたは、暮緒にい を愛し、最期を迎えるそのときまで、一生添い遂げることを誓いますか?」

「誓います」

カイは、戸惑いのない澄んだ声で返す。

「暮緒にい。あなたは、カイ・サファーを愛し、最期を迎えるそのときまで、一生添い遂げることを誓いますか?」

「……。」

何も答えない にい に、会場内がざわめきに包まれる。

(確かに、カイはいい人。それは、一緒にいてわかったわ。わたしに拒否権が存在しないことも、わかってる。でも……)

「誓えません」

にい は、意を決して告げた。そして、先程交換したばかりの指輪についているリボンを結び、逃げるようにして地球に戻った。

にい の脳裏にはずっと、1人の男子の姿が浮かんでいた。

~・~

「はぁっ はぁっ はぁっ」

異世界から1人地球に戻ってきた にい は、夜の町を1人で走っていた。目指しているのは、幼なじみで、にい の初恋の相手。そして今も大好きな、弦射れおが の家だ。

(わたしは、カイと結婚なんてできないわ。わたしが好きなのは、れおが だもの。小学生の頃からずっと好きだったのよ。異世界の人と望まない結婚をしてこの恋を無理矢理終わらせるなんて、絶対嫌!!せめて、れおが にこの気持ちを伝えてから……!)

そうして、れおが の家の前に辿り着く。

ピーンポーン  ガチャッ

「に、にい!?久しぶりじゃんか!こんな夜に、どうした?おばさんとおじさんが心配してるんじya」

「れおが お願い、わたしをかくまって……!」

にい は、これ以上不安で心細い気持ちを隠しきれず、れおが の言葉を遮って泣き出した。

れおが は、そんな様子の にい を見て少し戸惑ったが、何も言わずに家に招き入れてくれた。

~・~

「……で、何があったんだ?落ち着いてからでいいから、僕に全部話してほしい。」

れおが が、優しく声をかけてくれる。にい にとって、1番落ち着く声だ。

にい は、れおが に差し出されたホットミルクを飲みながら、今日自分に起きたことを全て、れおが に話した。

話を聞き終わった れおが は、少し腹を立てていた。

「おばさん、おじさん、なんで にい に婚約者なんて……!」

自分の為に怒ってくれている れおが を頼もしく感じながら、にい は、今 れおが に1番伝えたい言葉を紡ぎ始めた。

「それでね、きっとわたし、すぐにでも見つかって異世界に連れ戻されちゃうと思うの。だから、れおが にこれだけ伝えたくて……」

にい はそこで言葉を切ると、息を吸い、頬を染めながら、告げた。

「わたし、れおが が大好き。わたしと付き合ってくれないかしら……?」

れおが はそれを聞き、きょとん、としたかと思うと、喜びに頬を染め、にいを抱き締めた。

「僕も、にい が大好きだ!!やっと、にい が僕だけのモノにっ!!……ね、今日、にい の誕生日だったよな?でも俺、プレゼント用意できてないんだ。だから、かわりに……」

れおが は にい を抱き締めたまま、にい に唇を重ねようとする。にい も、れおが に身を委ねた。あと数ミリで唇が重なる、と思われた、その瞬間。

「弦射れおが。にい様から離れなさい。そのような行動は許されません。カイ様の婚約者ですよ。」

機械のように静かで、無機質な声に、それは遮られた。

「フォレスさん……!?」

にい が名前を呼ぶと、カエデは にい の方を見る。

「にい様、お戻りください。カイ様がお待ちしております。」

相変わらず抑揚の無い声で、無表情のまま告げてくる。

「このまま にい様がお戻りにならなければ、弦射れおが は次期王妃誘拐の罪で死刑にならざるをえません。まだ間に合います。選択肢は、残されていないはずですよ。」

れおが は、"死刑"と聞いた瞬間、顔を青ざめさせた。それを見た にい は、感情を消した声で、呟く。

「……わかったわ。レクリアに戻る。」

そして、最後にれおが に笑顔を向けた。

「さようなら、れおが。短い間だったけど、恋人でいられて嬉しかった。……ずっと、大好きよ。」

言い終わると同時に、指輪のリボンをほどき、レクリアに戻った にい。それとほぼ同時に、カエデの姿も消えていった。

「にいっ、行くな!!にいー!!」

その声が、にい に届くことは無かった。

~・~

にい はレクリアに戻ると、心配そうな顔をしたカイに迎えられた。

「にい さん、心配しました……!」

カイは、周りで まこ やモミジ、カエデが見ているのにも構わず、にい を強く抱き締めた。

(わたしのせいで結婚式が中断されたっていうのに、なんでそんなこと言えるのかしら。……どうせ、偽善者ぶってるだけでしょう?たいしてわたしのことを好きでもないくせに。)

心の中ではそう思いながらも、表面上では謝っておく。

「カイ、ごめんなさい……。」

カイは、じっと にい の顔を見たかと思うと、まこ たちの方を向く。

「少し、2人きりにさせてくれますか?」

そういうと、部屋に にい を連れていった。

~・~

部屋に入った後も、2人はしばらく無言だった。だが、しばらくして、カイが口を開く。

「にい さんは今、わたし……いえ、"俺"のことを、偽善者だと思っているのではないですか?どうせ好きでもないのに、って。でも、それは違います。まだ、話してませんでしたよね。俺の、にい さんへの気持ち──」

聞いたところによると、カイは、にい より1年早く、にい との婚約の話を聞いたらしい。そのときは、政略結婚なんて絶対しない、と思っていたそうだが、たまたま地球に旅行に来ていたときに にい を見かけ、一目惚れしたようだ。

「確かに、にい さんが れおが さんに抱く感情に比べたら、ちっぽけなものかもしれません。ですが、俺もちゃんと、にい さんのことが好きです。……それだけは、知っておいてください。」

カイの声は、にい に自分の感情を押し付けるような感じではなく、自然にすっと入ってくるようなものだった。

(わたし、自分の気持ちばっかりで、カイの気持ちなんて、全然考えてなかったわ……。もしも、もっと早くこの事を知れてたら、もっといい選択があったはずなのに。)

にい は、もっとカイの気持ちに耳を傾けるべきだったと、後悔した。

~・~

夜が明けた。地球では、れおが が激しい怒りと戦いながら、異世界に行く方法を探していた。

「にい っ……やっと僕のモノになったのに!!絶対取り返してやる。たとえ、にい を殺してでも……!」

れおが は、昨日 にい が使ったコップを握りしめながら、全身全霊の力を込めて、叫んだ。

「俺を、にい のところに連れていってくれ━━!!!!!」


すると、運命の悪戯だろうか。にい の指輪のリボンと同じようなものでできたブレスレットが、れおが の左腕に現れた。

れおが は自身の左腕を見てニヤリ、と笑う。

「神様は俺の味方みたいだな。待ってろよ、にい。今、お前のところに行く……!」

そうして、ブレスレットをしゅっ、とほどいた。

~・~

「カイ様、にい様、大変でございます!」

部屋で休んでいたカイと にい の元に、珍しく慌てた様子のカエデが飛び込んできた。

「カエデ、どうしました?そんなに慌てて。」

カイも、尋常な事態ではないことを感じながら、できるだけ冷静に問いかける。

「お逃げください、侵入者です!」

「逃げる?……もう遅いよ。にい!迎えに来た!!」

バンッ

カイと にい を庇うようにして立っていたカエデが、扉の向こうに吹っ飛ばされる。その衝撃で、カエデは意識を失った。

「れ、れおが……!?なんで れおが がここにいるのよ!!」

ここに来ることができないはずの れおが がここにいることへの驚きと、カエデがいとも簡単に吹っ飛ばされたことへの恐怖で、にい は声を大きくしながら叫んだ。

「なんで……か。にい、君はもう僕のモノだからだ。なぜ僕の所有物が、他の男のところにいる?おかしいだろ。……だから、にい を殺す。そうすれば、カイ・サファーは にい と結婚できない。にい は、一生僕のモノになる。一石二鳥じゃないか。さぁ、あまり時間はかけたくないんだ。一生大切にするよ、にい……!」

れおが はそう言うと、にい の元へ走り、心臓めがけて刃物を振り下ろした。

(どうしよう、足に力が入らないわ……!)

にい は、迫り来る恐怖に動くことができすに、死を覚悟し、叫ぶ。

「れおが、あなたのこと、信じてたのに……!」

血飛沫が、舞う。にいは、痛みを感じなかった。……かわりに、なにかに思いっきりぶつかられたような感覚。

さすがに不思議に思い、閉じていた瞳を開くと、そこには──

右足の膝から下を失ったカイが、痛みに顔を歪めながら、床に転がっていた。

「カイっ!!」

叫びながら、にい はカイも元に駆け寄る。

「なんでっ……わたしのことなんか、庇わなくていいのに!!」

にい は、自分でも気づかないうちに、大粒の涙を流していた。

「なんてムダなことを……。さぁ、今度こそ にい の番だ。」

そんな にい なんてものともせず、れおが は再び にい に切りかかろうとする。──が、れおが の刃が にい に届くことは無かった。

「僕の娘に……何をしている?」

「……!パパ!!」

見ると、モミジが れおが の刃を奪い、動きを封じていた。

「にい、ここは僕が何とかする。早く、カイ様を手当てするんだ。兄様はっ……あ、気がついたみたいだね。」

カエデは、頭を打ったのだろう。後頭部を手で押さえながら、ゆっくりとこちらに歩いてきていた。が、カイの様子を見た瞬間、顔を青ざめさせ、駆け寄ってきた。

「カイ様っ!!……大変だ。にい様、早く一緒に、医務室に……!」

~・~

処置を終え、ベッドに横たわったカイ。出血は無事に止まり、命の危険はないようだ。今は、カイと にい が部屋で2人きりだった。

「カイ、わたしをかばったせいで……。本当にごめんなさい……。」

にい は、何度目かの謝罪の言葉を口にする。カイは、そんな にい に優しく微笑む。

「気にする必要、ありませんよ。言ったでしょう?俺は、2年前……16歳のときから、にい さんのことが好きなんです。好きな人を守ってできた傷なんて、むしろ誇らしいぐらいですよ。」

にい は、こんなときに不謹慎だと感じながらも、カイの言葉を聞いた瞬間、胸の奥から、甘い、甘~い気持ちが溢れてきていることに気づいた。

(どうしよう、どうしよう……!わたし、カイのこと……!!)

「にいさん」

突如、カイが にい の名前を呼んでくる。

「……何よっ。」

カイへのこの甘い気持ちに気づかれてしまったのかと思い、思わず返事が素っ気なくなる。

カイは、少し頬を紅くしながら、ゆっくりと、囁くように、にい に告げた。

「俺は、にい さんのことが大好きです。……今まで大好きだった人に殺されかけた にい さんにこんなこと言うのは酷だと、頭ではわかっています。ですが、俺の中で留めておけるほど俺は大人じゃないので、言ってしまいますね。」

カイはそこで一旦言葉を区切ると、にい を優しく抱き寄せた。

「絶対、にい さんに俺のことを好きにさせてみせます。なので、もしもそのときが来たら……俺と、結婚してください。」

しばらく、沈黙が続く。カイも にい も、動かない。数秒の後、にい はカイからそっと体を離し、笑いながら言った。

「そうね。もしも私がカイを好きになったら、結婚してあげてもいいわよ!」

(……ホントはもう、その必要ないけどね。)

このときの にい の無邪気な笑顔を、カイは一生忘れられなかった。

~・~

──それから、半年経った、今日。にい とカイは、2度目の結婚式を挙げている最中だ。前回と違うところといえば、にい の気持ちと、カイが右足を失い、車椅子だということ。

「カイ・サファー。あなたは、暮緒にい を愛し、最期を迎えるそのときまで、一生添い遂げることを誓いますか?」

「誓います」

カイは、半年前と同じように、戸惑いのない、澄んだ声で返す。

「暮緒にい。あなたは、カイ・サファーを愛し、最期を迎えるそのときまで、一生添い遂げることを誓いますか?」

「誓います」

にい も、カイと同じように、意思の通った、澄んだ声で返す。

「それでは、カイ・クレオ・サファー。にい・クレオ・サファー。誓いのキスを」

2人は、向き合う。カイは、そこで にい に呟いた。

「にい さん、ファーストキスがこんなに大勢の人に見られてですけど……大丈夫ですか?」

にい はその言葉を聞いてキョトンとした後、急に不適な笑みを浮かべた。

「……そうね。わたしのファーストもラストも、キスは全部カイにあげる!!誰かに見られてたって、関係ないわっ!」

そして、カイの次の言葉を待つことなく、カイと唇を重ねた。

その瞬間。周りが、まばゆい光に包まれた。誰も瞳を開けることができないほどの強い光がおさまると──

失ったはずの、カイの右足が治っていた。

にい は、嬉し涙で瞳を輝かせながら、もう1度、カイと唇を重ねた。

今まで見せた中で、1番の笑顔で。

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