私が起きた時には
とっくに体育祭は終わっていた。
誰かに右手を握られた。
誰だろう。そう思った時,左手も。
温かい。幸せ。
私,このまま逝っちゃうのかな。
まぁ,人生ってこんなもんなんでしょ
初恋なんて叶うはずない。
私には夢なんて。持つ資格もなかったんだ。
私の両手は誰かの温かさに満たされていった。
でも,今なら分かる気がする。
こんな人生だから楽しかったなって思える事が,
たくさんあるって事に。
私は必死にその両手に応えた。
(優奈が目をゆっくり開ける)
左には美優。右には駿佑。
奥の椅子に座っているのは,お母さん。
私は震える声で,その言葉を皆に伝えた。
今までの気持ちを伝えられただろうか。
皆が,泣いている声が聞こえた。
泣いている顔なんて,初めて見るのに。
なんで今なんだし笑
ほんとやめてよねっ。。やめてよ。
私だって,皆と泣きたいよ。
泣いて,泣かしちゃってごめんねって
謝りたいのに。
私の為に泣いてくれて
ありがとうって,まだ言ってないのに。
(ピーーーーーーー)
ドタドタドタドタドタドタ
先生達や看護師が来る。
AEDを使って,私の心臓を..
お母さんと美優と駿佑は泣いて泣いて泣いた
私は死んで,
改めて命の大切さに気づいた。
こんなに簡単に逝ってしまうんだもん。
信じられないけど,これが私の人生なんだから
私は,16年間,精一杯生きた。
それでいい。
病気になった時のショックさで
母に八つ当たりした時
癌が遺伝する憎しみ
とてつもなく襲った苦しみ
全て辛かった。
でももう終わった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!