いつのまにか朝日は登り、熊は大きな音で目が覚めた。
バタン、という音。
あの物体から出ていた。
中にいる小さな人が、物体をガチャガチャといじっている。
なんだか面白そうだったので、熊も物体をガチャガチャといじってみた。
すると、物体の一部が自分に向かって開いた。
小さな人は、熊を見ると言った。
「お父さんとお母さん、酷いのよ。私が寝てるのをいいことに、囮にして逃げたの。」
熊にはさっぱりわからない言葉だったが、明らかに怒っていた。悲しんでいた。
熊はなんだか放っておけなくなり、食べるのも忘れて座り込んだ。
「あなた、ずいぶん大きいのね。私が持ってるクマちゃんより、ずっと大きい。」
「お腹空いてるの?だから食べようとしたの?」
「返事はしてくれないのね。」
「私、あなた。もうすぐ1年生なの。あなたは?」
「.....答えてくれないのね。いいわ。くうちゃんで。」
これが、熊とあなたの出会いだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!