それからしばらく彼女からの連絡はなかった。1分、2分、3分と時が過ぎていく。
まあ、そりゃそうなるよな。
と内心思う。少し一緒に遊んだだけ、話しただけの男をそう簡単に好きになってくれるわけがない。返事が先程までの彼女の返信ペースより遥かに遅いのは、きっとそういうことだろう。
4分、5分、6分。まだメールは来ない。多分彼女は今悩んでいるのだろう。どうやって僕をやんわりと断るか。彼女は優しいから。こんな僕にも話しかけてくれる優しい人だから。
7分、8分、9分。どんどん過ぎていく。その時間がもどかしくて、気付いたら全身汗びっしょりだ。とりあえず水を飲もうと立った時、ケータイが震えた。メールが来た。僕は汗ばんだ手で恐る恐るケータイを開いた。
おい。僕の緊張を返せ。
よくある契約会社からのメールだ。とりあえず水を飲んで定位置に戻り返信を待っていたが、また全身の汗が吹き出してきたため今度は風呂に入った。
20分ほどして風呂から上がるとちょうど、ケータイが2回ほど震えた。風呂でゆっくり気分を落ち着かせたおかげか緊張はしないが、それでもケータイに手を伸ばす手が汗ばむ。開けてみると、七瀬からのメールが二通。先に届いた方から開けてみると、
これは読んだらわかる、完全な嫌悪。
遠回しな拒否にしか見えない。言い方は悪いが、
私に告白するなんて嘘でしょ?どの面下げて?やめてくれる?冗談と言って頂戴。
みたいな、それを言われたのと同じくらいのダメージが僕の心臓に入った。
これが初恋かぁー初恋なんてこんなもんだよなぁー覚悟はしていたけれどいざ言われると辛いなぁー。
なんてことをわけも分からず呟く。
そこでもう一通来ていたことを思い出した。
出来れば
なんちゃって、実は私もまさきが好きだよーーーーー。愛してるよーーーーー。
みたいなことにはならないか。
それを願ってもう一通を開くと、そこにはたった1文。
すごくシンプルな表現でこう書かれていた。
は?
ってなった。驚いた。これはどんな嫌悪表現だろう。分からない。
10秒くらいしてやっと脳が追いついて、両想いであることを理解した。
すぐに返事が来た。
…夢のようだった。失恋なんかじゃなかった。
やっと頭の整理ができて今の状況を理解する。
僕は七瀬が好きで、
七瀬は僕のことが好きで、
つまり両想いで、
七瀬が僕に付き合って欲しいと言って、
それは全部夢じゃない。顔を引っぱたいてみたら痛いし、声を出してみたら自分の声が聞こえる。
確かに夢じゃなかった。
僕はすぐさま本心をそのまま書き写して送ったためまとまった文にすることができなかった。
実際、付き合ってはいけないというのは本当のことだ。だが、付き合ってないという名目で付き合ってるっぽいことをすれば大丈夫じゃないか、という屁理屈。
僕は
僕達が付き合えるようになっても一緒に、と言った。
彼女にその意味が伝わってくれただろうか。
高校に入っても、大学に入っても、社会人になっても、歳をとっても。
これからずっと七瀬と一緒にいたい。
そう願った。
これが、僕の人生唯一の、忘れられない初恋だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。