頑張ってるつもりでも全然ダメで
スタジオから逃げ出してきてしまった
楽屋に入った瞬間、涙が溢れてきた
仕事はちゃんとするって頑張るって決めたのに
井上さんとも約束したのに…
なにやってんだ、わたし。
急に涙がこみ上げてきて拭っても溢れてくる
不意に廉くんの名前を口に出してた…
よんでも来てくれるわけないのにね。
少しのあいだ、泣きながら何も考えないでいると
落ち着いてきてちゃんと仕事しよう!そう思えて
楽屋から出ようとドアを開けると
前に紫耀くんが立ってた…
お互い驚いた声をあげて見つめ合う
泣いてたのバレる。
頑張って笑顔を作って笑ってみせる
その瞬間
部屋に押されて
ギュッ
抱きしめ…られ…てる…
わたしの首に紫耀くんの息がかかって少しくすぐったい
さっきより抱きしめる腕の力が強くなって
わたしは苦しくなる…
苦しいけどなんかすごく安心できてこのままでいてほしい
離れたくない…
そう聞こえた…
抱きしめられてる腕がゆっくりゆるんで
紫耀くんがわたしをみつめる
顔がどんどん近づいてきて
紫耀くんはゆっくり目を閉じて首を傾ける
キスされる…
唇が重なる寸前に…
わたしは紫耀くんを押した
ダメ…
心でそう強く思った
わたしはとっさに
そう言った
紫耀くんはちょっと戸惑いながら
そう言ってくれて
気まずくならずにすんだ
泣いてるのやっぱりバレてたかな?
励まそうとしてくれたのかな?
紫耀くんの優しさだよね、きっと!!
優しくてほんとにいい人だし!!
なんか、気づいたらダメだ…って思って
なにも知らない。なにもない。そういいきかせた
あとでまたちゃんとお礼いわないと!
紫耀くんに抱きしめられてたぬくもりがまだ鮮明で。
ドキドキした…
辛い時って人のぬくもり、こんなに染みるんだ
そう考えながらわたしは紫耀くんの前を歩きながら
スタジオに戻った
交わらない幸せ
一方通行の気持ち
気付くことのない想い
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!