そう言って、私から離れていく玲於さん。
行かないで、
そう心で叫んだ。
ユキ…って彼女さん?
それとも、亜嵐くんが言っていた玲於さんは
恋ができないっていう理由なの?
ぎゅっと握りしめた手のひら。
爪で手のひらが痛い。
玲於さん、誰と話してる?
暗くてよく見えない。
走って戻ってきた玲於さん。
私の前で
玲於さんの横を素早く通り過ぎる。
だって、私、大人じゃないからさ。
高三でもう大人の仲間入りする手前。
けど、私には
そんな…余裕な心持てない。
いつまでも平常心保てる自信ない。
玲於さんから香る香り。
いつまでも鼻は覚えたまま。
…また、目から涙。
玲於さんは違う人のために走る。
どんな用事があっても。
その人のためなら…って
こんなに人を好きになったのは初めて。
余計に整理がつかなくて
気持ちも抑えることが出来ない。
経験浅いから…
わかんないの。
こういう時、どう対応するか。
ああなった時、引き止めるのが普通なのか。
わかんない。
何も。
考えれば考えるほど涙は止まらず溢れる。
玲於さんの為に可愛くした化粧も涙で流れていく。
歩くスピードもだんだんゆっくりになって
気づけば大通りに出ていた。
東京はずっと賑やかだ。
人いるもん…
サラリーマンとかOLさんとか。
仕事帰り、飲みに行く人だらけ。
そんな人たちを避けながら歩いていたら
スーツを着たおじさん。
ちょっと酒臭くて、酔ってるのか。
そういったおじさんの顔つきが
急変してとてつもなく気持ち悪い。
仕舞いには、私の手を掴んで離さない。
やめてっ、
そう思うのにいざとなれば声なんか出ない。
必死に抵抗し、やっと振り解けたけど
まだまだ追いかけてくるおじさん。
私は必死になって電話帳を開いた。
上から順に
玲於さん
夏
北人
玲於さんはダメだし…
…北人!!
prrrrrrrrrr
こんな夜中だとかそんなこと考えれなくて
申し訳なかったけど
怖くて…怖くて…
明らかに眠そうな北人の声。
目の前に現れる私達のバイト先。
止まらない涙は地面に落ちていくだけ。
後ろから声がして怖くてたまらない。
おじさんをまいてちょっとした路地裏。
怖いけど、仕方ない。
青色のゴミ箱の後ろに隠れた。
大きなゴミ箱。
電話が中断されてすごい不安になった。
手の震えも止まらないし
吐きそうなぐらい気持ち悪くなる。
北人に位置情報を送信しすぐ既読になる。
…北人っ
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!