第47話

レモンティー
2,988
2019/09/01 06:46
あなた

ありがとう、北人。
また送ってもらっちゃった。

吉野北人
いいよいいよ。気にすんな ~ 。
可愛い顔して男前なことする。


ずるいなぁ、この男は。
けど、送って貰ってばっかだし。
あなた

あ、家あがっていかない?

吉野北人
は?
あなた

送って貰ってばっかだし
ちょっとお礼というか、お茶だけだけど。
それでも良かったら。

吉野北人
いいの…?
あなた

…うん!

北人、嫌がるんじゃないかってちょっと心配だったけど


良かった。
私が先に玄関の前に来てドアを開ける。
あなた

汚いかもだけど…ごめんね?

吉野北人
全然、気にしない ~ 。
北人を部屋にあげて


地元から持ってきている紅茶のティーバッグ。
お母さんが趣味でよく集めてた。


私も飲まされてた。


初めて飲んだ時は嫌だったけど今になったら


もう、大好きな味なの。
私の部屋を興味深そうに見渡す北人。


ソファに座ってソワソワしてるみたい。
あなた

はい、紅茶。

吉野北人
ありがとう。
暖房を付けて私も北人のソファの下に座る。
吉野北人
美味しいっ…レモンティーだ。
あなた

そう!好き?

北人に聞くと


紅茶を見ながら微笑んで頷いた。


良かった、


私も、大好きなんだ、レモンティー。
吉野北人
好き。
思わず、北人の顔を見上げた。


じっと、私を見てたからドキッとした。


けど、
レモンティーがね。


と、付け足した北人。
あなた

うん、私も。

それから、北人は疲れたみたいでソファで横になった。


気づけば長い針が6時をさしている。
吉野北人
帰りたくねぇ ~ 
あなた

住み着かれたら困る!

吉野北人
住み着きたい…
こんなはずじゃなかったけどなぁ ~ 、笑


ただお茶して解散。


そんな感じに想像していた。


私の家、そんなに居心地いい?
あなた

家族さん待ってるよ。

北人は笑顔が消えて


持っていたクッションにシワが入る。
吉野北人
家族なんていないよ。俺には。
あなた

え?何言ってるの?

吉野北人
…家族に必要とされてないからなぁ、俺。
ちょっと…理解できない。


どういう…
吉野北人
よし、お邪魔しました!
紅茶ありがとうね。
あなた

あ、うん…全然…

吉野北人
また来ていい?
さっきとは違う。


いつもの北人。
あなた

…うん!いつでも来てね。

吉野北人
…ありがとう!
靴を履いて玄関まで見送る。
男らしい背中。


何があるの?


北人には。


家族に必要とされてないってどういうことなの。
あなた

…北っ

吉野北人
またな!
笑顔でドアを開けて出て行ってしまった。


ガチャン、と閉まる扉。
あなた

…またね

北人を知るにつれて


私の知らない北人がどんどん現れて


頭がこんがらがっていく。


悩みを抱えていなさそうな北人が


結構、深刻そうな悩みを抱えてる。


それだけは分かった。


私に出来ることはないかって考えるけど


思い浮かばない。
北人には笑ってて欲しいし、幸せになって欲しい。


こんな私と一緒にいてくれる優しい人なんだから。


感謝してるからこそ、思う事であって。
机の上に並ぶ2つのティーカップ。


お皿の上に置かれたティーバッグが


どこか切なく見えたのは初めて。

プリ小説オーディオドラマ