可愛い顔して男前なことする。
ずるいなぁ、この男は。
けど、送って貰ってばっかだし。
北人、嫌がるんじゃないかってちょっと心配だったけど
良かった。
私が先に玄関の前に来てドアを開ける。
北人を部屋にあげて
地元から持ってきている紅茶のティーバッグ。
お母さんが趣味でよく集めてた。
私も飲まされてた。
初めて飲んだ時は嫌だったけど今になったら
もう、大好きな味なの。
私の部屋を興味深そうに見渡す北人。
ソファに座ってソワソワしてるみたい。
暖房を付けて私も北人のソファの下に座る。
北人に聞くと
紅茶を見ながら微笑んで頷いた。
良かった、
私も、大好きなんだ、レモンティー。
思わず、北人の顔を見上げた。
じっと、私を見てたからドキッとした。
けど、
レモンティーがね。
と、付け足した北人。
それから、北人は疲れたみたいでソファで横になった。
気づけば長い針が6時をさしている。
こんなはずじゃなかったけどなぁ ~ 、笑
ただお茶して解散。
そんな感じに想像していた。
私の家、そんなに居心地いい?
北人は笑顔が消えて
持っていたクッションにシワが入る。
ちょっと…理解できない。
どういう…
さっきとは違う。
いつもの北人。
靴を履いて玄関まで見送る。
男らしい背中。
何があるの?
北人には。
家族に必要とされてないってどういうことなの。
笑顔でドアを開けて出て行ってしまった。
ガチャン、と閉まる扉。
北人を知るにつれて
私の知らない北人がどんどん現れて
頭がこんがらがっていく。
悩みを抱えていなさそうな北人が
結構、深刻そうな悩みを抱えてる。
それだけは分かった。
私に出来ることはないかって考えるけど
思い浮かばない。
北人には笑ってて欲しいし、幸せになって欲しい。
こんな私と一緒にいてくれる優しい人なんだから。
感謝してるからこそ、思う事であって。
机の上に並ぶ2つのティーカップ。
お皿の上に置かれたティーバッグが
どこか切なく見えたのは初めて。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!