お腹を抱えて笑う玲於さん。
私…間違えたこと言った?
良かった…
良かった…
本当に玲於さんに好きな人が出来たなら
私に勝ち目ないと思ってたし
この際に諦めようって思ってた所だった。
めちゃくちゃ聞いてくる玲於さん。
なんと言えば…
話を逸らして歩く。
先走って行ったのが悪く、
横から走ってくる自転車。
やばいっ、そう思った時
私の手を後ろに引いた玲於さん。
気づいたら玲於さんの腕の中にいた。
ニヤニヤと悪巧みの顔。
その言葉あれからトラウマでもう聞きたくなかった。
さっきとは違う、玲於さん私の手を繋いで歩いてくれている。
寒い夜に玲於さんの手で温まる私の手。
ずっとこうしていたい。
そう願うけど、玲於さんという存在は
私と遠くかけはなれている。
そんな、私の願いは叶うはずもなく。
この楽しい時間はあっという間。
私達の住むアパート前。
…今なら聞いてもいいかな。
嘘をつく時、玲於さんは後頭部をかく癖がある。
有名で今大人気なアーティストさんが
こんな私と同じ家賃の家に住むはずが無い。
何かしら、理由がある。
玲於さんは私の後ろを見つめた。
振り向くと玲於さんの家に一人の女性。
髪は長く、とてもスタイルのいい人…
この人っ…て?
私の横を通って玲於さんはその女性のところへ向かう。
私もゆっくりついていく。
玲於さんに気づいた…ユキさん。
目の前で玲於さんに抱きついて
今の私の気持ちは…酷く黒い。
玲於さんに触れないで、抱きつかないで。
独占欲が出てきて、自分が嫌になる。
私に気づいたユキさんは私を睨みつける。
ユキが立ち位置を変えて
玲於さんの腕にユキさんの腕を組んで
早く入れ、とユキさんに伝えて
二人で部屋に入っていく玲於さんとユキさんを
横で見つめているしか無かった。
嫌だ。
ユキさんは玲於さんの何…?
その後、正直、聞きたかったな。
彼女?
結婚相手?
なんなの?
私に言えない関係?
玲於さんの部屋と1番近い壁に手を当てる。
あの時、朝帰ってきたのは
ユキさんと居たから?
ユキさんがいるのに、なんで私に勘違いするような事
したり、言ったりするの…
単純だから、そういうの。
期待する。
もしかして、両思いじゃないかとか。
決してありえない事だって
たまに妄想したり、1人で舞い上がって痛いやつだった。
…私、もう諦めなきゃいけないのかな。
玲於さんとは私は釣り合わない。
そんなことはわかってる。
もうすぐめくらなきゃいけないカレンダー。
次は1月。
出会った日の日付に
" 隣人さんとお友達になれた日! "
" 佐野玲於さん "
この時は私がこんな思いになるなんて
思ってもいなかっただろうな。
私がいちゃ、玲於さんを邪魔してしまう。
ならいっそ、ここが区切りいいかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。