食べ終えた食器達をシンクに運ぶ。
テレビを見ながら私に伝える。
洗い物は得意だ。
実家でよくお母さんの手伝いをしてたから。
小さい頃から教えこまれてきた
皿洗いは得意分野。
佐野さんの食べた食器…
そう考えたらぼーっとしちゃって
立ち上がった佐野さんはキッチンのカウンター前に
肘ついて動かなくなる。
佐野さんを瞬間的に見ると
目が合ってびっくりした。
そう上目遣いで言われるからさ…
ドキドキしない人、いないでしょ…
こんな顔面偏差値高すぎな人に。
そう言ってソファに戻っていってしまった。
そうだ、転校先の高校になるんだよなぁ、私。
友達できるかな。
心配が募るばかり。
皿洗いを終えて、佐野さんの隣に座る。
佐野さんの見るテレビ。
見たことの無いテレビ。
7人がキラキラと汗を流して踊ってるテレビ。
私も見ようと前のめりになった時。
プチッと切られて
田舎だからテレビも何もやってないし
その時は携帯も必要なかった。
特に趣味はなかったし
田舎娘ってこんなもんでしょ。
地元の子とお喋りしてるのか一番楽しかったし
来る前も長々と家の電話を使ってコソコソ電話してたもんね。
靴を履いてドアノブに手をかける。
頭を下げて外に出る。
寒いっ、
直ぐに家に入ると
何にもない部屋が玄関から見えるだけ。
佐野さんの部屋が贅沢すぎるんだ。
悲しく見えてくる。
一応ベッドは引越センターの方が運んでくれたから問題は無い。
暖房持ってこればよかった。
ミスった…
ちょっとの、期間だし、いいかなって。
甘い考えだったな。
お風呂に入って何もかも済ませ、
布団にダイブ。
布団の温もりが地元の温もりのようで
お母さんに会いたくなってしまう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。