次の講義の為に離れの校舎から渡り廊下を移動していた時。
「あっ!!」
突然強風が吹いて持っていた書類が庭に散らばってしまった。
うわ〜最悪…絶対汚れたやん。
一枚ずつ拾い集めたけどどうしても1枚見つからへん。
どこ行ったん俺の書類〜……
うろうろと庭を探していると向かいから歩いてきた人とぶつかってしまった。
「いてっ!……あ、ごめんなさい…」
「った…」
あれ?この人…
「あ!書類!!」
「あぁ…さっき拾ったんやけどお前のか」
見たことある気が…と思ったのも束の間、この人が手に持っていた書類はまさに俺が探していた最後の1枚。
「ありがとうございます!風で飛ばされて探したたんです」
「ん。ちょっと汚れてもーてるけど」
「あー…まぁしゃーないです」
受け取ろうとすると、ヒョイと紙を上げた。
「え」
「なぁ、ちょっとお茶せーへん?」
「お茶…?いや僕これから講義が…」
「講義?今から行っても単位もらわれへんやろ」
時計を見るととっくに開始時間を過ぎていた。
「いや…でもなんでお茶?」
「ん?この紙拾ってあげたお礼?」
「そういうのって拾ってもらった人が言うやつやろ…」
図々しいな、なんやこの人…
「まぁまぁええやん!行こうや!」
「え、ちょっ!!」
半ば無理矢理腕を引かれ、学校のすぐ近くの喫茶店に二人で入った。
顔の綺麗なこの人は、コーヒーを注文し、僕はメロンソーダを頼んだ。
「メロンソーダ飲むん?かわいいなぁ」
「………」
なんで僕は初対面のこの人とお茶してるんや。
さっきからジロジロとすごい見てくるし…なんなん?
「あの、あなたは一体何者ですか?」
「え?あぁ、名前言ってなかったな。西畑大吾っていいます、だいちゃんって呼んでな」
…西畑大吾…あぁ、やっぱりそうだ。
「あの、あなた確か女装してないのにナンパされたことあるとかって噂のある…」
「え?そんな噂流れてんの?嫌やわぁ、まぁ昔の話やけどな〜」
本当なんだ。
てことは、この人があなたの好きな人か。
「君は?お名前教えてや」
「大西です」
「下の名前は?」
「流星」
「流星!名前もかわいいなぁ〜!!」
え…?なんなん?マジで怖いねんけど。
「もしかしてそっちの方ですか…?」
「え?いやいやちゃうよ笑 あーでも勘違いするよな、ごめんごめん笑 恋愛対象は女の子やで」
「そうですか…」
だとしたらますます目的がわからん…
なんでこんなとこまで連れてこられたんや。
「西畑さん」
「だいちゃんやって」
「西畑さん」
「だいちゃんって呼んでや」
「西畑さんの目的はなんなんですか?初対面の僕をこんな所に連れ出して…」
「だいちゃんって呼んでくれたら教えてあげる」
………めんどくせーーー。
しゃーない。この場を乗り切る為に付き合ったるか…
「だいちゃん…なんでなん?」
上目遣いで自分の中の可愛さフルスロットルで訴えかける。
「ゔっ……かわいいっ………」
ふん、チョロい。
かつて自分の思い通りにしたい時、先生や親に対して使ってきたこの技、まだまだ使えそうやな。
「流星がかわいいからや!ただそれだけ!さっき会って女の子みたいな顔やな〜って思ってん」
「ふーん…でもだいちゃんモテるやろうし別に本物の女の子と遊んだらええやんか」
「……女は疲れんねん、私が大吾の一番じゃないと嫌!って女同士で揉めたり、ストーカーされたり、一番ヤバイ時はゴミ漁られたり…もう疲れた」
モテ自慢か…とも思ったけど、ゴミを漁られるとかはもう犯罪レベルやし、マジでもう嫌なんやろうな。
かと言って男に走るのはどうなん?とも思うけど。
「そっか…モテすぎるのも辛いんやね」
「なんか自慢みたいになって男友達にも理解してもらえへんこともあるし、あんま言わんねんけどな」
「そうなんや。それなのに僕には話してくれるんやね」
「うん、まぁ半ば強引にここまで連れてきてもーたからな笑」
「自覚あったんや」
「ごめーん笑」
最初はビックリしたけど、まぁ悪い人ではなさそうやし、こんな日もたまにはええか。
「だいちゃん、結構この学校の有名人やから僕も最初見た時あれ?って思ったよ」
「え、そうなん?流星にそんなん言われるとめっちゃ嬉しいわ!」
「僕の友達もだいちゃんに一目惚れした〜とか言ってたしな」
「え?そうなんや」
あれ…やっぱこの話題はタブーやったかな。
「あーごめん。嫌なんよね?女の子は」
「いや、別に知らん人やろうし、大丈夫やで。気ぃ遣わせて逆にごめんな」
普通にいい人っぽいやん。
なんか可哀想やな。大学なんて恋愛してなんぼやのに、こんなことになっちゃうなんて。
ニコニコしとるけど、いっぱい傷付いてきたんやろうなぁ。
「流星、ケーキ食べる?ここのチーズケーキ美味しいで」
「食べる〜」
それから学校の話やプライベートの事、大した話ではないけど色々喋って、かなり打ち解けた。
結局ケーキとドリンク代を奢ってもらい、連絡先を交換してその日は別れた。
『またデートしてな♡』って言われたけど『デートはせんけどまた遊んであげるのはええよ』と答えた。だいちゃんはとても喜んでいた。
そんなだいちゃんを見て、かわいいなと思った。
…あ、あなたより先にだいちゃんの連絡先ゲットしてもーたかもしれん。
なんて言おう。
僕がだいちゃんにナンパされたって言ったら嫉妬で狂いそうやな、あなた笑
どんな反応をするか想像しニヤニヤしながら家に帰った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!