丈くんの家で気分転換した翌日。
私はバイト先の居酒屋に行き、店長に辞めることを伝えた。
急な退職で困らせることもわかっていたし、お世話になったのにこんな終わり方…とも思うけど、これが今出来るベストな方法だと思った。
ひたすら謝り倒し、クリーニングした制服のエプロンを返却、店に置いてあった私物を持ち帰った。
家に着き荷物を下ろすと、少し肩の荷も降りた気がした。
新しいバイト探さなきゃ。
その日ネットでバイトを探し、いくつか面接のお願いの連絡もした。
学校や家から通いやすくてお給料も今までと同じか少し上がる所で絞って探していたけど意外と少なくて、少し焦る。
なんだかんだ今までのお店はお給料良かったもんな…学生の身でこれ以上もらおうとするなら水商売くらいしか思いつかない。
私の知識がとぼしいのもあるけど、最終手段はそれか…と頭を過ぎる。
…いや、さすがにそこに足は踏み入れたくない。今後の就活に影響したらやだし。
でも親からの仕送りも少ないし、これ以上頼るのも難しい。
とにかく探すしかない!
履歴書を書き、履歴書に貼る写真も撮って、片っ端から仕事を探した。
ーーーーーー
「んで?新しいバイト探すんや?」
「そう…」
講義が終わり学食で流星とけんちゃんとみっちーと一緒に過ごす。
バイトを辞めた経緯を話す為にこれまでのことを3人にも一応話した。流星は『逆に脈あるんじゃないか?』って言うけど、私にはその意味がさっぱりわからなかった。
その流れで流星と大吾さんが一緒にいた理由も聞いたけど、やっぱり元々知り合いだったわけではなく大吾さんから声をかけられて仲良くなったらしい。
…なにそれ、自慢?
流星のことをかわいいかわいいと言いケーキとドリンクをご馳走になったと報告された私の気持ちを君は考えたかい??こちとら暴言吐かれとんのよ。わかる?
…まぁ、それはそれとして。
「その時な、だいちゃんの話も色々聞いたんやけど…あの人モテるやん?そのせいで過去に色々と酷い目にあったらしいねん」
「へぇ」
「それであんまり女の子と関わらんようになったんやって」
「そうなんだ」
「それってどういうことかわかる?」
「え?」
「もー!ちゃんと聞いてや!」
「聞いてるよー」
いいなー、私も大吾さんとカフェ行って色んな話したいなー。
「女の子と積極的に関わろうとしなかった人が、自分から連絡先渡したんやで?」
「……あ、流星くん、たしかに」
「そうやん!」
「それは、私がゲロ吐いて可哀想と思ったんじゃないの?責任感じたとか」
「いや、あの人は多分そんなことでわざわざ女の子に連絡先渡さへんと思うで、しかも自分に気がありそうな子に」
そうかなぁ。
「…そう言われてみたらそうかも、流石になんとも思ってへん子に連絡先なんか渡さんよな」
「いや…みっちーよく考えて?私その人にゲロの処理させたんだよ?普通ゲロ吐いた女に好意持たないでしょ」
「けど普通男の子ナンパしないでしょ?だいちゃんは普通じゃないんよ」
流星…なんだそのフォローは…
「あ〜!!わかったあ!!自分の為に大食い頑張ってる姿にキュンときたってことや!!」
けんちゃんの大声が食堂に響く。
「俺もその可能性高いと思う」
「うわ、なるほどなぁ」
え?今のでなるほどってなる??
頑張ってたのが伝わってたとしても、ゲロ吐いた女だよ?
「しかも、あれやん!前になんか電話してたやん!」
「電話?」
「あれ?あ、そっか流星くん知らんのか」
「あなたちゃんに夜中電話してきたんよ、その大吾さん。確か…誰かと話したくなったからかけたとか、体調大丈夫か?とか言ってたんよな?」
「…よく覚えてるね」
「え、知らん知らん!聞いてへん!!」
「あれはねぇ……良かったっすよ」
「うわ、あなたちゃんまたニヤニヤしとる」
「え、そんなんもう脈アリやん」
「でも酔っ払ってたってオチだけどね」
「酔ってる時の方が本音が出るって言うやん!」
ワイワイとあーだこーだ言いながら3人で盛り上がっている。
とにかく私はバイトを探さなきゃという一心で3人の会話をBGMにスマホで検索をしていた。
♪♪
LINEの通知音が鳴る。なんだろ?
「うわっっっ」
「なに?」
「どしたん?」
「大吾さんから…連絡きちゃった…」
LINEを開くと、大吾さんとのトークに新着メッセージが届いていた。
「うそ!?なんて!?」
ドキドキしながらLINEを開くと、『会って話したい』とだけ書かれていた。
3人に伝えると『もう告白ちゃうん!?』『これキタな!!』『やったやん!!』となぜかお祭り騒ぎしている。私の気持ちだけ置いてけぼり。
でも今日は学校終わったらバイトの面接3件入れてるしなー…明日も多分面接…決まらなければ明後日も…
いつ会えるかなんて今はわかんないや。
それに、3人は浮かれてるけど実際は大吾さんに軽蔑されてるかもしれないし。
今度こそ本気で叱られてさよならかもしれない。
そう思うと会うのが怖かった。
「なにしてんの?はよ返信せんと!」
「え…でも私面接でしばらく忙しいし…」
「何を言ってるん!?あなたちゃん、バイトと大吾さんどっちが大事なん!?」
けんちゃんがほっとかれてる彼女みたいな発言をしてくる。
…どっちも大事だよ〜…大吾さんともし上手く行くならそうなりたいけど、でもバイト決めないと生活が…
「面接終わった後会いに行ったらいいやん!」
「でも何時になるかわかんないし…」
「だいちゃん、たぶん何時まででも待ってくれるで」
「え…」
「このタイミングでの『会いたい』は普通の遊びの誘いではないやろ」
……それはそうだろうけど。
「あ〜〜じれったいな!貸せ!!」
「あっ、ちょっと!!」
みっちーにスマホを奪われる。
素早く何かを打ち込み、すぐに私に返された。
何を打ったのかと思ったら…
「『私も会いたいです』…」
「ナイスみっちー!」
「このくらいシンプルな方がむこうもドキッとするやろ」
いや会いたいけども…会いたいけど会いたくない…何を言われるのかと思うと怖い。
するとまたすぐに返信が来た。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!