午前10時30分
山小屋前
ここまで来たら、もう引き返せない。
2人とも、そう分かっていた。
ジンside
あなたがドアの前で止まった。
1度自分も誘拐された相手だ。
きっと、嫌なのだろう。
ただ、それとは別に、
何か嫌悪感も感じる。
それでも、もう引き返せない。
この山小屋を囲んで、
複数の人が居る、気配がしていた。
キィー
そう、古いドアの開く音と共に、
2人は、山小屋の中へと入った。
あなたside
海人は、私と同じように、
イスに縛り付けられていた。
でも、私の時と違う点がいくつか…
まず、手が自由に動かせるようになっていて、
食べ物、飲み物が置いてあること。
窓が、木の板で打ち付けられていること。
そして、何より違うのは、
お母さんがその場に居ないこと。
その代わりかどうかは分からないが、
食べ物が置いてある机に、
パソコンが置いてあった。
その画面に写ってるのは、
お母さん。
ここで、ひとまず安心した。
それに、海人もまだ、
犯人の正体は知らされていないようだった。
結局、私は何をやっても、
上手くいかないのだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!