第14話

~14話~
2,988
2021/03/24 04:00
その日の夜は、どうしても眠れなかった。
放課後に聴いた、あのたくさんの音が、耳から離れなかった。
あなた

あんなの、私には無理だよ。

どうしても眠れなかったので、少し夜風に当たることにした。
玄関を抜け外に出ると、もう外はすっかり夏の匂いになっていた。
外廊下からマンションの外側を眺める。
すると、
髙田彪我
髙田彪我
こんばんは。あなたさん。
後ろから声がした。
振り向くと、立っていたのは彪我さんだった。
あなた

え、彪我さん?どうしたんですか?

すると彪我さんは
髙田彪我
髙田彪我
なんか喉渇いて、でも冷蔵庫見たら水がなかったんでコンビニにでも行こうかなと。
あなた

あ、そうなんですね。

なんだか私は申し訳ない気持ちになってしまい、目を合わせられなかった。
髙田彪我
髙田彪我
一緒に行きます?コンビニ。
あなた

え?

髙田彪我
髙田彪我
いや、なんかギターのことで聞きたいこととかないかな。と思って。
普段、提案なんてすることのない彪我さんからそんなことを言われて、少し戸惑ってしまった。
あなた

えっと。い、行きます。

髙田彪我
髙田彪我
じゃあ、行きますか。
そう言って彪我さんは歩き出した。
だけど、何を話すわけでもなく、あっという間にコンビニについてしまった。
髙田彪我
髙田彪我
あなたさん、何か欲しいものとかあります?まとめて買っちゃいますけど。
あなた

あ、いや!大丈夫です。

そうですか。と呟き、彪我さんは水を買う。
コンビニを出て2、3歩歩いたところで彪我さんが口を開く。
髙田彪我
髙田彪我
何かありました?
ドキッとした。
罪悪感が、じわじわと私の心を埋める。
彪我さんは前を見ながら続ける。
髙田彪我
髙田彪我
いや、なんかいつもと雰囲気が違うんで大丈夫かなぁって。
6月にしては少しだけ冷たい風が吹く。
髙田彪我
髙田彪我
あれ、思ったよりも寒いな。大丈夫ですか?
あなた

あの。今日、バンドメンバーを集めようと思って軽音部のライブに行ったんです。そしたら、本当にすごくて。あ。私には無理だ。できっこない。って思っちゃったんです。本当にごめんなさい。

少しだけ、彪我さんの歩くスピードが落ちた気がした。
髙田彪我
髙田彪我
あぁ~。すごいわかるなぁ。その気持ち。
あなた

彪我さんも最初の頃はそう思ってたんですか?

すると彪我さんは少し笑いながら首を横に振った。
髙田彪我
髙田彪我
最初どころじゃないですよ。今も思いますねぇ。
あなた

え。今も?あんなに上手に弾けるのに?

髙田彪我
髙田彪我
いやいや!全然まだまだです。だからこそっていうか……。ん~。あ!1個、あなたさんの気持ち当ててみましょうか。
あなた

私の、気持ち?

彪我さんは嬉しそうに3回首を縦にふると、こう続けた。
髙田彪我
髙田彪我
私には、無理かも。だけど、あんな風に演奏してみたいなぁ。って思いませんでした?びっくりが大きすぎて好奇心があんまり見えてないだけだと思いますよ。
あなた

いやいや!彪我さんみたいに上手に弾ける人だけです!そう思うのは!

すると彪我さんはまた、嬉しそうに、
髙田彪我
髙田彪我
上手い下手関係ないんですよ。こういう感情になるのって。大事なのは、好きかどうか、です!
あなた

好きかどうか?

髙田彪我
髙田彪我
はい。そして、あなたさんは音楽が大好きなはずです。
自信満々にそう言う彪我さんに、私は疑問しか浮かばなかった。
あなた

なんでそう言い切れるんですか?

髙田彪我
髙田彪我
だって。水曜日以外の日でも毎日、ギターに触ってますよね。
びっくりしたと同時に、恥ずかしくなった。
あなた

すみません!!うるさかったですよね!!

髙田彪我
髙田彪我
全然!好きじゃないと毎日なんて触れませんし、そういう音は、決まってどんな音よりも綺麗なんです。
そして彪我さんは、微笑みながら私に言った。
髙田彪我
髙田彪我
302の音。あなたさんの音。僕、大好きですよ。
とても、綺麗だった。
顔が熱くなるのがわかる。
心臓の鼓動が速くなる。
声が出ない。
やっと絞り出せた言葉は、
あなた

あの。さん。じゃなくて、あなた。で大丈夫です。

その夜、私は、
必ず文化祭に出ようと決心した。

プリ小説オーディオドラマ