ピンポーン
気がつくと私は、彪我さんの部屋の前にいた。
彪我さんが出てくる。
彪我さんは、目を見開いて驚いている。
そう言って彪我さんは部屋の中に入っていった。
悪いことをしているのは理解している。
彪我さんは私の頭にタオルを乗せる。
私はトボトボと彪我さんの後について行く。
タオルを頭に乗せたまま玄関に立っていると、彪我さんは心配そうに
と、言いながら頭を拭いてくれる。
胸がズキズキと痛む。
いつもなら嬉しいはずなのに、なんでかすごく痛い。
彪我さんの手を振りほどき、俯いたまま聞く。
一息ついた後、口を開く。
自然と、考える前に言葉が漏れていく。
え?とたじろぐ彪我さんを無視して続ける。
なんでこんなことを言っているんだろう。
ずぶ濡れでいきなりやってきて、わけも分からないまま告白なんかしちゃって。
自分でもよく分からない。
彪我さんは少し考えて喋り出す。
分かってはいたが、彪我さんは私を想う気持ちなんて1つも持ち合わせていない。
あぁ。だめだ。
こんなこと。
言っちゃいけないのに。
困らせてしまうだけなのに。
そのまま私は玄関のドアを開け、自分の部屋に戻って行った。
我ながら本当に理不尽だ。
彪我さんは何も悪くないのに。
最悪な告白だ。
告白なんて、初めてだったのに。
やっぱり、小説みたいにはいかないな。
同級生とも、
彪我さんとも、
何もかもがダメになってしまった。
やっと。
やっと家族とのわだかまりが無くなったのに。
その日はもう、
小説を読む気にも、ギターを触る気にもなれなかった。
ピンポーン
ハッと気がつくと夜の8時になっていた。
布団の中で寝てしまっていたらしい。
誰だろう。
1階のオートロックからのインターホンではない。
ドアを開けると、立っていたのは雅功さんだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!