第10話

~10話~
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2021/02/24 04:00
その後、お母さんと私は日が暮れるまで話した。
多分、ほとんど同じことをずっと言っていたけど、それで良かった。
それが、良かった。
お母さんとちゃんと話せているということが、嬉しかった。
あなた

お母さん、ごめんね。

最後は、ちゃんと、目を見て言えた。
後日、学校が休みの日に大阪に帰って、妹と、新しいお義父さんとも話した。
義父は確かに良い人そうだった。
話し合って、全部を理解して、全部に納得したかと言われればそんなことは無い。
だけど、自分の気持ちを全部言えたから、多少なりともスッキリはした。
そして、新しい環境を受け入れる覚悟もできた。
お義父さん
あなたちゃんのこと、秋穂ちゃんのこと、本気で考えてるから。今すぐとはいかないかもしれないけど、僕のこと、信じてほしい。
そう、義父は言った。
あなた

あなた。で、良いですよ。お義父さんなんだし。

そう言って実家を後にした。
我ながら、かっこいいと思った。
あなた

雅功さん、本当にお騒がせしました!これ、尾崎紅葉の『金色夜叉』です!貰ってください!

東京へと戻ってきた私は、すぐさま雅功さんに挨拶に行った。
田中雅功
田中雅功
あなたちゃん、玄関先でしゃべるには、ちょっっとだけ声が大きいかな~。でも、ありがとう。
雅功さんは、ハハっと笑った。
あなた

あの~。帰ってきて早々申し訳ないんですけど、1つ雅功さんにお願いがあって…。

田中雅功
田中雅功
わかってるよ。読みたい本、勝手に取って行って!
あなた

ありがとうございます!

私は大阪の実家には戻らず、引き続き東京で一人暮らしをすることにした。
決して家族と暮らしたくない、という訳ではない。
私には、東京でやりたいことが増えたのだ。
今回の1件で、やりたいこと、言いたいこと、自分自身を出すことの前向きさを知った。
だからこそ、今は1人でやりたいことをやれるだけやろう。そう思ったんだ。
「やりたいこと、たくさんやり!」
そう、お母さんも言ってくれた。
田中雅功
田中雅功
そういえば、また明日から学校だっけ?
本棚を物色する私に、雅功さんが問いかける。
あなた

そうです!あ、で、もうひとつ相談なんですけど。

田中雅功
田中雅功
相談が多いな。よし。決めた。相談は1日3回までとしよう。
雅功さんは手をポンっと叩く。
あなた

なんですかそれ。アラジンじゃないですか。

田中雅功
田中雅功
いやいや、アラジンより良心的でしょ。1人3回までじゃないんだよ?1日に3回まで。なんだよ?
あなた

とにかく、相談、聞いてくださいよ。お願いします!雅功様~。

雅功さんは、はいはい、と私をなだめると
田中雅功
田中雅功
んで?どうしたの?
と聞き直す。
あなた

私、友達を作りたいんです!

田中雅功
田中雅功
作ればいいじゃん。
間髪入れず言ってくる雅功さん。
あなた

いや、違うんですよ。雅功さんも知ってると思いますけど、私めちゃめちゃ学校では暗いって言うかなんて言うか。友達作りにくいキャラだったんです。でも、なんか、いい感じにイメージチェンジしたいなぁ、と!

雅功さんはパチパチと、パソコンを打っている。
全くこっちを見てくれない。
あなた

雅功さん!聞いてますか~!私!友達!作りたいんです!

雅功さんは何も言わず立ち上がった。
あ、しつこかったかな。
そう思ったが、
田中雅功
田中雅功
じゃあ、これすれば良いよ。
そう言って雅功さんが渡してきたのは、木でできた箱と板に針金が6本ついた楽器。
あなた

あぁ~ギターかぁ。うん。ギターねぇ。

思考が追いつく。
あなた

え!?ギター!?

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