それから2年間はお母さんが言っていたように、3人で強く生きていました。
とびっきり良い生活ができている訳ではなかったけど、笑顔が絶えることはありませんでした。
3人でお弁当を作って、3人で買い物に行って、3人で掃除や洗濯をして。
お父さんがいなくなったからって、欠けるものは1つもなかったんです。
でも、
私が中学2年生の冬を迎えようとしていた頃、私と妹は裏切られたんです。
母が、男の人を連れてきました。
そして、何を言い出すかと思えば、
って。
信じられない。
信じたくない。
そう思いました。
「これからは、何があっても私達だけで強く生きていこうね。」
そう言った母が、
本人が、それを真っ先に破ったんです。
理由が私には分からない。
前に一度、裏切られて3人になったんですよ?
なのにまた男の人を好きになりますか?
普通。
しかも、何の不自由もなく3人で暮らしてたのに。
それ以来、母と話すことは少なくなっていきました。
聞く必要もないし、
聞きたくもない。
どうせまたあの時の、あの父親みたいにタラタラ言い訳して終わりなだけなんですから。
とにかく、私は再婚に猛反対しました。
でも結局、私が中学3年生になる頃、あの人は再婚したんです。
そこから一気に、人が信じられなくなりました。
「もう。誰とも喋りたくない……。」
母親に裏切られたんです。
もっと言えば、生みの親2人に裏切られたんです。
人を信じられなくなって当たり前ですよね。
「お母さんは……。そっか。そうだったんだ。」
あぁ、この人は子供のことなんてどうでも良かったんだなぁ。
って、悟っちゃったんですよ。
それから1年は、完全に引きこもり状態でした。
中学2年生の頃はまだ、地元の高校に進学するつもりだったんですけど、中学卒業と同時に家を飛び出して、東京に来ました。
私は雅功さんの顔をまともに見ることができなかった。
心臓の音が、脈を波打つ血液の音が、うるさいくらい私の中で響いている。
勢いで全部喋ってしまった。
なんて言われるだろうか、面倒くさいと思われているだろうか、どうでも良いと思われているだろうか。
「そんな話、聞かなきゃよかったよ。」
雅功さんがそんなこと言うはずがないのに、私の耳の中で、勝手に幻聴すら聞こえる。
私の目から、涙が溢れ出す。
これは、親とのことを思い出して流す涙ではない。
雅功さんとの縁が、これをきっかけに終わってしまうんじゃないかと、それだけが怖かった。
心を許すということは、終わってしまう関係を始めるということだから。
雅功さんが口を開く。
耳を塞ぎたくて仕方がなかった。
正座で座っているからか、足が震えだす。
よく見たら、手も震えている。
あぁ。
こんなことなら話さなければ良かったな。
後悔、寂しさ、不安、たくさんの感情が、今まで感じたことのない想いが私の中で溢れ出して止まらなかった。
耐えきれず立ち上がろうとした私の腕を、優しく掴む。
優しくて温かい手が、そっと、私の頭を撫でた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。