あれから1ヶ月ほど経った。
毎週水曜日、1時間だけ、彪我さんにマンツーマンでギターを教えてもらっている。
まだ4、5回しか会っていないが、なんとなく彪我さんがどんな人なのかわかってきた気がする。
聞かれたことにだけ答える人。
聞かれないことに関しては喋らないし、
聞いて欲しくないことには触れないでいてくれるとても優しくて素敵な人だ。
私がなんでギターを始めたのか。
とか、
学校ではどんな感じなのか。
とか、聞かないでいてくれる。
きっと友達がいないだとかイメージチェンジしたいだとか、人に言いづらいことだと気づいて聞かないでいてくれてるんだ。
なぜか少しオーバリアクション気味の雅功さん。
彪我さんとのマンツーマンレッスンが終わったあと、
301号室の玄関先で雅功さんオススメの本を受け取る。
辺りはもう、暗くなっている。
じゃあ。と、その場を離れようと、踵を返したその時。
雅功さんに呼び止められた。
振り返ると、雅功さんは少し戸惑っていた。
雅功さんは腕を組みながら、
上を見たり下を見たりしている。
雅功さんの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
顔を覗き込むと、雅功さんは慌てて顔をそらして言う。
なんだか最近、雅功さんが何かとグイグイくるような気がしてならない。
301号室と外廊下の間に、不思議な静寂が漂う。
そう言って扉を閉める。
はぁ。
と、ため息をつく。
301号室の扉の中から、同じように、
ため息が聞こえたような気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。