第19話

〜19話〜
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2021/04/28 04:00
田中雅功
田中雅功
これ、この前借りてた谷崎潤一郎の『鍵』、面白かったよ!
雅功さんは私に小説を差し出す。
あなた

あ、ありがとうございます。

田中雅功
田中雅功
あぁ〜。
すると雅功さんは、まるで推理小説の種明かしを読んだようなリアクションをとる。
あなた

え、なんですか?

田中雅功
田中雅功
今度は何?友達と喧嘩したとか?
あなた

え?

田中雅功
田中雅功
いや、前もそうだったけどさ。雨音ちゃんって結構分かりやすいよ?無理に相談しろとは言わないけどね。
雅功さんって、ほんとにすごい。
あなた

あの、実は……。

私は今日1日、何が起きたのかを雅功さんに話した。
同級生と喧嘩してしまったこと。
そして、彪我さんに思わず酷いことを言ってしまったこと。
流石に告白してしまったことは言えなかったけど。
田中雅功
田中雅功
なるほど。
雅功さんは顎に手をあて、少し考える。
田中雅功
田中雅功
それで落ち込んでるんだ。
あなた

はい……。

田中雅功
田中雅功
じゃあ、大丈夫そうだね。
あなた

え?

雅功さんから、予想外の回答がきて、ビックリしてしまう。
あなた

大丈夫って何がですか?

田中雅功
田中雅功
え、落ち込んでるってことは自分がどうすれば良かったのかとか、もう分かってるってことでしょ?
確かに。
反省しているところはある。
あなた

でも、納得できないこともあるんです。ことはちゃんは、やっぱり言い過ぎだったと思うんです。

田中雅功
田中雅功
ってことは、自分が何を言いたいかも分かってるってことだね。あとは、その、ことはちゃんって子と同じにならないように優しく言ってあげれば完璧だ!
雅功さんはいつも、どうすれば上手くいくか分かっているようだ。
あなた

雅功さんなら上手く話せるかもしれませんけど。私には無理ですよ。

田中雅功
田中雅功
あ!1学期の頃のあなたちゃんに戻ってるよ!話してみなきゃ分かんないこともある。僕だってたくさん失敗するよ。上手く話せたことの方が少ない。でも話してみなきゃ変わらないし、変われないんだ。それはもう、お母さんと話せたあなたちゃんなら分かるでしょ?
雅功さんとこうやって話すのって、何回目だろう。
雅功さんの言葉を聞く回数が増える度、より理解できるようになっている気がする。
田中雅功
田中雅功
あと!もうワンステップ進むためには、話すことよりも、聞くことの方が大事だったりするね!相手を知ることができれば、自分がなんて言えば相手に届くのか考えて、言葉を選ぶことができるから。そのことはちゃんとあなたちゃんは、お互いもっと相手の話を聞ければ良い関係になれると思うよ?
あなた

なるほど……。

感情的になりすぎたんだ。
怒りが心から溢れかえってしまって、冷静に相手のことを知ろうと思えなかった。
田中雅功
田中雅功
じゃあ、行こっか!
あなた

え、またですか!?心の準備が……。

田中雅功
田中雅功
もういらないでしょ!心の準備!彪我なんだし大丈夫大丈夫〜。ことはちゃんとは明日、ちゃんと話しなよ?
そう言って雅功さんは、またもや強引に私の手を引っ張って彪我さんの部屋の前に連れていった。
ピンポーン
髙田彪我
髙田彪我
はーい。
彪我さんが出てくる。
田中雅功
田中雅功
よう。
雅功さんは一呼吸おいた後、
田中雅功
田中雅功
あなたがさ。
話をし始める。
田中雅功
田中雅功
彪我に言いたいことがあるんだって。
雅功さんは私の背中を押す。
あなた

酷いことを言って困らせてしまって、本当にごめんなさい。彪我さんが許してくれるなら、もう1度、私にギターを教えてください!

彪我さんはニコッと笑って、
髙田彪我
髙田彪我
全然大丈夫だよ。この経験が、良い音色を出すことだってあるからね!
そう言った。
雅功さんは彪我さんと
このまま打ち合わせをするらしく、彪我さんの部屋に残るみたいだ。
私が
あなた

ありがとうございました。

とお礼を言って去ろうとした時、雅功さんは、
田中雅功
田中雅功
僕も頑張るから。
とだけ言い残した。
はい。
私も明日、ちゃんと話せるように頑張ります。
そして
ことはちゃんに
明日会って話したいと、メールを送った。

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