雅功さんは私の気持ちが落ち着くまで、涙が止まるまで、何も言わずに待っていてくれた。
私はコクリと頷く。
雅功さんはクスッと笑いながら言う。
雅功さんはう~んと少し考えて、言う。
少し、イライラした。
前を向くが今の私にはできないんだ。
雅功さんがボソッと言う。
言っていて、自分が嫌になる。
私だって、それだけポジティブに物事を考えられたらどれだけよかったか。
でもそれは絶対にできない。
私は人だけじゃなくて、雅功さんの言う、「分からない未来」のことも信じられないんだから。
雅功さんは、
とだけ言い、その場から立ち上がった。
こうやって、また心を開いた相手が何処かへ行ってしまう。
やっぱり、所詮人間なんてそんなものだ。
私が人である限り、人と接していかなければならない限り、分からない未来を信じることなんてできないんだ。
顔を上げると、雅功さんが本を差し出していた。
本の表紙には『こころ』と、書かれていた。
夏目漱石の『こころ』は、私もなんども読んだことのある作品だ。
学校の教科書にまで載っているこの作品。
友人を裏切ってしまった『先生』が生涯そのことについて悩み、苦しむお話だ。
雅功さんは首を横に振る。
雅功さんは手に持っている本を私に渡しながら言う。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。