翌日、
私は、ことはちゃんとりっちゃんと、たくさん話をした。
学校の誰もいない教室で、
自分が反省しているところ。
相手の嫌だったところ。
これからどうしていきたいか。
1日中、3人で大泣きしながら話し合った。
やっぱり、自分が思っていることを一方的に話すだけでは、何も進まないとわかった気がする。
ちゃんと相手の話を聞かなきゃ、分からないことはたくさんある。
ことはちゃんも、
と、話してくれた。
昼頃に集まって、気がつくと夕日が沈みかけていた。
その頃にはもう私たち3人は大親友になっていて、笑顔で校門を出た。
『言いたいことはしっかり話す。そしてそれをちゃんと聞く。』
そういう約束をして、その日は別れた。
それからというもの、私たちは世界で1番楽しい夏休みを過ごした。
たまに3人で遊びに行ったりもして、
2人を私の家に呼んで、お泊まり会もした。
と、ことはちゃんが可愛らしいことを言っていたので、
『えぇ〜!可愛い〜!』
と、りっちゃんと2人で茶化すと、顔を真っ赤にして
と言ってきた。
うん。
やっぱり可愛い。
もちろん、
ただ遊んでいただけではない。
ほぼ毎日、スタジオに足しげく通い、音を合わせた。
ことはちゃんは、悪いこともそうだが、
良いことも素直に言う性格だった。
ことはちゃんの
が聞きたくて、私はより一層の練習をするようになった。
彪我さんとのレッスンにも身が入る。
彪我さんに褒められるのは、ことはちゃんに褒められるよりも、嬉しかった。
まだ、彪我さんのことは好きだ。
だからこそ、今はまだ、この恋心は胸の内にしまっておく。
いつか彪我さんに「はい。」って言ってもらえるような人になってから、今度こそちゃんと告白しようと決めたんだ。
夏休みが終わって学校が始まっても、
私たちは視聴覚室に集まって練習をした。
ドラムの音を聴き、
ベースの音を聴き、
顔を見合せ、
音を出す。
これがこんなにも楽しいことだったなんて。
音楽を私にくれた雅功さんには、本当に感謝しなきゃだ。
もちろん、
文化祭には
雅功さんと彪我さん、家族のことも誘った。
雅功さんは
そう言ってくれた。
恥ずかしいし、緊張するけど、やっぱり見て欲しい。
上手くいってもいかなくても、それが雅功さんと彪我さんへの、恩返しだと思うから。
文化祭当日。
あと、15分後には私たちはステージの上にいる。
体育館裏の控え室で3人で話す。
ことはちゃんのことを、最近はずっとこっちゃんと呼んでいる。
『可愛い〜!』
私たちがワイワイ騒いでいると、
顧問の藤原先生が話しかけてきた。
『はい!』
3人で声をそろえて返事をして、ステージに上がった。
そこには今まで見たことのない景色が広がっていた。
体育館にはたくさんの人がいて、当然だけど、みんな私たちのことを見ている。
全身が震える。
頭が、真っ白になる。
バーーン!
バーーン!
ドン!ドン!ドン!
こっちゃんがいきなり、ドラムを叩き始めた。
それに応じるようにりっちゃんもベースを弾き始める。
会場のお客さんは、一気に火がついたように声を上げる。
と、こっちゃんはそっと、私に届くように言ってくれた。
りっちゃんも、いつものように微笑んでくれている。
そう自分に言い聞かせると、少しだけ頭がスッキリしてきた。
そして、ふと、体育館の奥の方に、雅功さんと彪我さん、家族の姿が見えた。
みんなは笑顔で見守ってくれている。
うん。
言わなきゃ。
言いたいことは、ちゃんと言うんだ。
ドラムとベースの音が鳴る中、震える手を抑え、私は話し出す。
手の震えは抑えられても、どうやら喉は震えたままのようだ。
言うんだ。
上手く言えなくたっていい。
私の気持ちをさらけ出すんだ。
そうすれば必ず伝わるはずだから。
心臓の音が大きくなっていく。
血管が、破裂しそうだ。
もう、1人で練習してたあの部屋じゃない。
私たちの名前を、大声で、叫べ。私。
これが私の、新しい302の音だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。