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第20話

〜最終話〜
3,190
2021/05/05 04:00
翌日、
私は、ことはちゃんとりっちゃんと、たくさん話をした。
学校の誰もいない教室で、
自分が反省しているところ。
相手の嫌だったところ。
これからどうしていきたいか。
1日中、3人で大泣きしながら話し合った。
やっぱり、自分が思っていることを一方的に話すだけでは、何も進まないとわかった気がする。
ちゃんと相手の話を聞かなきゃ、分からないことはたくさんある。
ことはちゃんも、
戸谷ことは
言いすぎたところもあったよね。ごめん。でも、本当に最高のものにしたかったんだ。
と、話してくれた。
昼頃に集まって、気がつくと夕日が沈みかけていた。
その頃にはもう私たち3人は大親友になっていて、笑顔で校門を出た。
『言いたいことはしっかり話す。そしてそれをちゃんと聞く。』
そういう約束をして、その日は別れた。
それからというもの、私たちは世界で1番楽しい夏休みを過ごした。
たまに3人で遊びに行ったりもして、
2人を私の家に呼んで、お泊まり会もした。
戸谷ことは
一人暮らししてる子の家なんて、来ることないからドキドキするよ。
と、ことはちゃんが可愛らしいことを言っていたので、
『えぇ〜!可愛い〜!』
と、りっちゃんと2人で茶化すと、顔を真っ赤にして
戸谷ことは
ばか!
と言ってきた。
うん。
やっぱり可愛い。
もちろん、
ただ遊んでいただけではない。
ほぼ毎日、スタジオに足しげく通い、音を合わせた。
戸谷ことは
いいじゃん!今の!
ことはちゃんは、悪いこともそうだが、
良いことも素直に言う性格だった。
ことはちゃんの
戸谷ことは
いいじゃん!今の!
が聞きたくて、私はより一層の練習をするようになった。
彪我さんとのレッスンにも身が入る。
髙田彪我
髙田彪我
すごい!上手になってるね!
彪我さんに褒められるのは、ことはちゃんに褒められるよりも、嬉しかった。
まだ、彪我さんのことは好きだ。
だからこそ、今はまだ、この恋心は胸の内にしまっておく。
いつか彪我さんに「はい。」って言ってもらえるような人になってから、今度こそちゃんと告白しようと決めたんだ。
夏休みが終わって学校が始まっても、
私たちは視聴覚室に集まって練習をした。
ドラムの音を聴き、
ベースの音を聴き、
顔を見合せ、
音を出す。
これがこんなにも楽しいことだったなんて。
音楽を私にくれた雅功さんには、本当に感謝しなきゃだ。
もちろん、
文化祭には
雅功さんと彪我さん、家族のことも誘った。
雅功さんは
田中雅功
田中雅功
絶対行くよ!楽しみにしてる!
そう言ってくれた。
恥ずかしいし、緊張するけど、やっぱり見て欲しい。
上手くいってもいかなくても、それが雅功さんと彪我さんへの、恩返しだと思うから。
あなた

ふふふ!楽しみだね!

文化祭当日。
あと、15分後には私たちはステージの上にいる。
体育館裏の控え室で3人で話す。
あなた

うわぁ。どうしよう……。緊張する……。

戸谷ことは
え?あんた緊張してんの?緊張したってしなくたって、やることは変わんないんだからね!
あなた

うふふ!でもこっちゃん、足が震えてるよ?

橘梨華
ほんとだ!こっちゃんも緊張してるんじゃん!
ことはちゃんのことを、最近はずっとこっちゃんと呼んでいる。
戸谷ことは
うるさい!武者震いよ!
『可愛い〜!』
戸谷ことは
ばか!
私たちがワイワイ騒いでいると、
顧問の藤原先生が話しかけてきた。
藤原先生
3人とも、もうすぐ出番だよ!頑張って!
『はい!』
3人で声をそろえて返事をして、ステージに上がった。
そこには今まで見たことのない景色が広がっていた。
体育館にはたくさんの人がいて、当然だけど、みんな私たちのことを見ている。
全身が震える。
頭が、真っ白になる。
あなた

どうしよう……。

バーーン!
バーーン!
ドン!ドン!ドン!
こっちゃんがいきなり、ドラムを叩き始めた。
それに応じるようにりっちゃんもベースを弾き始める。
会場のお客さんは、一気に火がついたように声を上げる。
戸谷ことは
大丈夫。
と、こっちゃんはそっと、私に届くように言ってくれた。
りっちゃんも、いつものように微笑んでくれている。
あなた

大丈夫。大丈夫。

そう自分に言い聞かせると、少しだけ頭がスッキリしてきた。
そして、ふと、体育館の奥の方に、雅功さんと彪我さん、家族の姿が見えた。
みんなは笑顔で見守ってくれている。
うん。
言わなきゃ。
言いたいことは、ちゃんと言うんだ。
ドラムとベースの音が鳴る中、震える手を抑え、私は話し出す。
あなた

私は、ギターも歌もまだまだです。ドラムのこっちゃんに、何度怒られたか分かりません。でも、その度にベースのりっちゃんが励ましてくれました。

手の震えは抑えられても、どうやら喉は震えたままのようだ。
あなた

私は、ギターも歌もまだまだです。何度りっちゃんを困らせたか分かりません。でも、上手くできた時は、こっちゃんが思いっきり褒めてくれます。

言うんだ。
上手く言えなくたっていい。
私の気持ちをさらけ出すんだ。
そうすれば必ず伝わるはずだから。
あなた

私は、ギターも歌もまだまだです。だからこそ、この3人で音楽ができて良かったと思っています。この3人が、私の原点です。0です。この2人に出会えて、私は本当に幸せです。

心臓の音が大きくなっていく。
血管が、破裂しそうだ。
あなた

申し遅れました。私たちは……

もう、1人で練習してたあの部屋じゃない。
私たちの名前を、大声で、叫べ。私。
あなた

302です。よろしくお願いしまーーす!!

これが私の、新しい302の音だ。

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