第1話
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来栖 まのん、15歳。
突然だが、私はこう思っている。
現在を生きる、今ここに確かにいる私は実は偽物なんじゃないかって。
本当の私はもっとずっと先の未来にいるんじゃないかって。
それでそれで、今ここにいるように思える私は本当の私が見ている走馬灯の中の人間なんじゃないかって。
自分が考えていること、理論なのに、伝えようとすると頭がこんがらがる。
変ね。
私は街灯の少ない塾の帰り道をとぼとぼと一人歩きながらそんなことを思った。
ここは人通りも多くないし、私が一人だということをより際立たせる。
え?何でそんな変な理論を唱えるのかって?
それは、
この世界が、この毎日が、あっという間に過ぎていくから。
ぼーっとしているとするすると流されていってしまうから。
だからなんだか私が行動しなくても未来なんて決まってて勝手に進んでいくんじゃないか。
そんな風に思うからよ。
私が頑張ることに意味なんてあるのかしら。
そこのあなた、私の理論に納得がいかないご様子ね。
まあそれも無理がないわ。
科学の力で証明とか大それたことはできないし、
私だってもしかしたらと思っているだけで本気で思ってるわけじゃないもの。
…別に。
12月の冷たい空気がスカートの裾から中に入ってくる。
冬が寒いのはシベリア気団が原因だって理科で習った気がするわ。
シベリア気団は空気だけじゃなくて私の心も冷やしているのかしら?
なんだか私ごと凍ってしまいそう。
靴下じゃなくてタイツを履いてくれば良かったなんて後悔しても無駄ね。
何か面白いこと起きないかしら。
この言葉は俗に言う暇な人の言葉とは違うわ。
そう、私は受験生。
勉強も部活も塾もあって忙しいんだから。
…ただ、退屈なだけなのよ。ただ。
そんなことをぼんやりと考えていた時、聞こえてきた。