第4話

セロ弾きのゴーシュ 4
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2020/05/28 08:54
 ゴーシュはとうとう手が痛くなって
ゴーシュ
こら、いいかげんにしないか。
と云いながらやめました。するとかっこうは残念そうにをつりあげてまだしばらくないていましたがやっと
かっこう
……かっこうかくうかっかっかっかっか
と云ってやめました。
 ゴーシュがすっかりおこってしまって、
ゴーシュ
こらとり、もう用が済んだらかえれ
と云いました。
かっこう
どうかもういっぺん弾いてください。あなたのはいいようだけれどもすこしちがうんです。
ゴーシュ
何だと、おれがきさまに教わってるんではないんだぞ。帰らんか。
かっこう
どうかたったもう一ぺんおねがいです。どうか。
かっこうは頭を何べんもこんこん下げました。
ゴーシュ
ではこれっきりだよ。
 ゴーシュは弓をかまえました。かっこうは
かっこう
くっ
とひとつ息をして
かっこう
ではなるべく永くおねがいいたします。
といってまた一つおじぎをしました。
ゴーシュ
いやになっちまうなあ。
ゴーシュはにが笑いしながら弾きはじめました。するとかっこうはまたまるで本気になって
かっこう
かっこうかっこうかっこう
とからだをまげてじつに一生けん命叫びました。ゴーシュははじめはむしゃくしゃしていましたがいつまでもつづけて弾いているうちにふっと何だかこれは鳥の方がほんとうのドレミファにはまっているかなという気がしてきました。どうも弾けば弾くほどかっこうの方がいいような気がするのでした。
ゴーシュ
えいこんなばかなことしていたらおれは鳥になってしまうんじゃないか。
とゴーシュはいきなりぴたりとセロをやめました。
 するとかっこうはどしんと頭をたたかれたようにふらふらっとしてそれからまたさっきのように
かっこう
かっこうかっこうかっこうかっかっかっかっかっ
ってやめました。それからうらめしそうにゴーシュを見て
かっこう
なぜやめたんですか。ぼくらならどんな意気地ないやつでものどから血が出るまでは叫ぶんですよ。
と云いました。
ゴーシュ
何を生意気な。こんなばかなまねをいつまでしていられるか。もう出て行け。見ろ。夜があけるんじゃないか。
ゴーシュは窓を指さしました。
 東のそらがぼうっと銀いろになってそこをまっ黒な雲が北の方へどんどん走っています。
かっこう
ではお日さまの出るまでどうぞ。もう一ぺん。ちょっとですから。
 かっこうはまた頭を下げました。
ゴーシュ
だまれっ。いい気になって。このばか鳥め。出て行かんとむしって朝飯に食ってしまうぞ。
ゴーシュはどんと床をふみました。
 するとかっこうはにわかにびっくりしたようにいきなり窓をめがけて飛び立ちました。そして硝子ガラスにはげしく頭をぶっつけてばたっと下へ落ちました。
ゴーシュ
何だ、硝子へばかだなあ。
ゴーシュはあわてて立って窓をあけようとしましたが元来この窓はそんなにいつでもするする開く窓ではありませんでした。ゴーシュが窓のわくをしきりにがたがたしているうちにまたかっこうがばっとぶっつかって下へ落ちました。見るとくちばしのつけねからすこし血が出ています。
ゴーシュ
いまあけてやるから待っていろったら。
ゴーシュがやっと二寸ばかり窓をあけたとき、かっこうは起きあがって何が何でもこんどこそというようにじっと窓の向うの東のそらをみつめて、あらん限りの力をこめた風でぱっと飛びたちました。もちろんこんどは前よりひどく硝子につきあたってかっこうは下へ落ちたまましばらく身動きもしませんでした。

つかまえてドアから飛ばしてやろうとゴーシュが手を出しましたらいきなりかっこうは眼をひらいて飛びのきました。そしてまたガラスへ飛びつきそうにするのです。ゴーシュは思わず足を上げて窓をばっとけりました。

ガラスは二三枚物すごい音してくだけ窓はわくのまま外へ落ちました。そのがらんとなった窓のあとをかっこうが矢のように外へ飛びだしました。そしてもうどこまでもどこまでもまっすぐに飛んで行ってとうとう見えなくなってしまいました。

ゴーシュはしばらくあきれたように外を見ていましたが、そのままたおれるようにへやのすみへころがってねむってしまいました。

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