第3話

セロ弾きのゴーシュ 3
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2020/05/28 08:54
 次の晩もゴーシュがまた黒いセロの包みをかついで帰ってきました。そして水をごくごくのむとそっくりゆうべのとおりぐんぐんセロを弾きはじめました。十二時は間もなく過ぎ一時もすぎ二時もすぎてもゴーシュはまだやめませんでした。それからもう何時だかもわからず弾いているかもわからずごうごうやっていますとたれか屋根裏をこっこっと叩くものがあります。
ゴーシュ
猫、まだこりないのか。
 ゴーシュが叫びますといきなり天井てんじょうの穴からぽろんと音がして一ぴきの灰いろの鳥が降りて来ました。床へとまったのを見るとそれはかっこうでした。
ゴーシュ
鳥まで来るなんて。何の用だ。
ゴーシュが云いました。
かっこう
音楽を教わりたいのです。
 かっこう鳥はすまして云いました。
 ゴーシュは笑って
ゴーシュ
音楽だと。おまえの歌は、かっこう、かっこうというだけじゃあないか。
 するとかっこうが大へんまじめに
かっこう
ええ、それなんです。けれどもむずかしいですからねえ。
と云いました。
ゴーシュ
むずかしいもんか。おまえたちのはたくさんくのがひどいだけで、なきようは何でもないじゃないか。
かっこう
ところがそれがひどいんです。たとえばかっこうとこうなくのとかっこうとこうなくのとでは聞いていてもよほどちがうでしょう。
ゴーシュ
ちがわないね。
かっこう
ではあなたにはわからないんです。わたしらのなかまならかっこうと一万云えば一万みんなちがうんです。
ゴーシュ
勝手だよ。そんなにわかってるなら何もおれのところへ来なくてもいいではないか。
かっこう
ところが私はドレミファを正確にやりたいんです。
ゴーシュ
ドレミファもくそもあるか。
かっこう
ええ、外国へ行く前にぜひ一度いるんです。
ゴーシュ
外国もくそもあるか。
かっこう
先生どうかドレミファを教えてください。わたしはついてうたいますから。
ゴーシュ
うるさいなあ。そら三べんだけいてやるからすんだらさっさと帰るんだぞ。
 ゴーシュはセロを取り上げてボロンボロンと糸を合わせてドレミファソラシドとひきました。するとかっこうはあわてて羽をばたばたしました。
かっこう
ちがいます、ちがいます。そんなんでないんです。
ゴーシュ
うるさいなあ。ではおまえやってごらん。
かっこう
こうですよ。
かっこうはからだをまえに曲げてしばらく構えてから
かっこう
かっこう
と一つなきました。
ゴーシュ
何だい。それがドレミファかい。おまえたちには、それではドレミファも第六交響楽こうきょうがくも同じなんだな。
かっこう
それはちがいます。
ゴーシュ
どうちがうんだ。
かっこう
むずかしいのはこれをたくさん続けたのがあるんです。
ゴーシュ
つまりこうだろう。
セロ弾きはまたセロをとって、かっこうかっこうかっこうかっこうかっこうとつづけてひきました。
 するとかっこうはたいへんよろこんで途中とちゅうからかっこうかっこうかっこうかっこうとついてさけびました。それももう一生けん命からだをまげていつまでも叫ぶのです。

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