第9話

Diaryー9ー
30
2021/09/03 09:00
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
分けのぼる道はよしかはるとも、終には我も人もひとしかるべし。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
あ、樋口、一葉…

翔くんの緊張が伝わってきて、私も心臓がドキドキしてくる。

一瞬の間の後、翔くんは強く私を見据えた。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
うん。
…一葉ちゃんには話すね。
俺の……好きなこと。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
一葉ちゃん。  
昨日さ…
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
う、うん…
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
見たんだよね。
俺の、本棚。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
み、た。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
あれが答えみたいなものかな。
俺の趣味は、本を読むこと。
大好きなんだ。小説が。

"大好き"、その言葉を口にした翔くんの顔は、見たことがないくらい優しく、柔らかいものだった。

心拍が、上がる。
鳴り止まない心音が翔くんに聞こえないように、私はそっと言葉を紡ぐ。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
素敵だね…
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
そう、かな。
他のやつに言うと馬鹿にされそうで、言ったことなかったんだけど。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
私は、馬鹿になんかしないし、むしろかっこいいと思う。
私も、小説大好きだよ。
言いたい事の半分も伝えられることは出来なかったけれど、彼にはそれで十分みたいだった。

翔くんは安心したように目尻を下げて、心の底から嬉しそうに笑った。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
ありがとう、一葉ちゃん。
なんか、ちょっとすっきりしたよ。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
い、いえ…
なんか偉そうにごめんね…
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
全然。
てか、雪国、取ろうとしたんだよね?
一葉ちゃんが持ってっていいよ。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
そ、そんな…!
翔くんも読みたかったんでしょ?
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
俺は今度借りに来るから。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
じ、じゃあ、一緒に読みませんか…?

どうしても今別れるのはしたくなくて、私は思わずこんな提案をしてしまった。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
え?

翔くんは大きく目を見開く。

私のバカ〜!
めっちゃ引かれてるし。

そもそも、文庫本が2人で読めるわけないじゃん…!


鳴ってもいない終了のお知らせが何故か耳にはっきりと聞こえる。

恥ずかしくなり、私は文字通り「穴があったら入りたい」状態になってしまった。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
い、いや…。
あの、これは言葉の綾っていうか…
だから、その、気にしないで。
赤く染まった頬を見られたくなくて、俯きながら早口で口にしてその場から立ち去ろうとした私の手を、翔くんは掴む。

翔くんは表情をすっかり明るくして、笑っていた。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
いいんだけど、やっぱ文庫本だと厳しいかな。
まだ午前中だし、俺は別の本読んで待ってるから、一葉ちゃんが読み終わったら貸してよ。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
もちろん!
私たちは机に移動することにした。

少し迷った末、翔くんが手に取ったのは、私が電車の中で読んでいた「山月記」だった。

私は雪国を手に、翔くんは山月記を手に机へ向かう。

私には趣味の共有者が、翔くんには秘密の共有者が出来た瞬間だった。















作者
作者
なんとか一段落つきました。
なんか、すごい満足感を感じている私です。
秘密の共有者って、なんかすごい危ない関係で大好きなんですけど、皆さんはどうなんでしょう…?
まだまだこの小説、続きますので、何卒よろしくお願いいたします。

プリ小説オーディオドラマ