良かったぁ。
誰もいない…
私がいつの間にか止めてしまっていた息をしようと大きく息を吸い込んだ時、たった今入ってきたドアが開いた。
うわ、我ながら間抜けな声。
案の定翔くんはびっくりして目を見開いている。
それだけ言って目を逸らし、翔くんから離れようとしたその時、腕を掴まれた。
うわ、なんかデジャブ…?
真剣な声に思わず立ち止まってしまう。
振り返ると翔くんは声通りの真剣な眼差しで私を見つめていた。
なんかいつもより強引…
なんか気に触ることしちゃったかな?
……心当たりありまくりなんですけど。
あり、ます。
そんな事ありまくりです。
でも言えるわけないじゃん!
ついてます。
めちゃめちゃ嘘ついてます。
だから言えないんだって!
吸い込むような、見透すような翔くんの目を見ているうちに、私は無意識に言ってしまっていた。
ハッとする。
ヤバい、言っちゃった…!
翔くんは満足そうに笑った。
翔くんは首を傾げる。
うっ、心臓に悪い…
思わず言い淀んでしまったその時、司書の先生が入ってきた。
私が勢いよく返事をすると、翔くんは不服そうな顔をしながらも、ホワイトボードを出し始めた。
やっぱり今日の翔くんはちょっとおかしい。
もしかして拗ねてる…?
そう考えると口角が自然と上がって、愛おしくてたまらなくなった。
人を好きになるって、不安で怖くて、分からないことだらけだけど。
私、初恋が翔くんで良かった。
いつか言えるといいな。
私は気持ちがふわふわしたまま、委員会の準備を進めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。