第18話

Diaryー18ー
8
2022/01/15 05:00
やっぱり人生は予想できないことばかり起こる。

──────数分前、今度こそ図書室に向かおうと廊下を歩いていた私は、後ろから聞こえてくる足音にゆっくりと振り向いた。


反射的な行動。

それだけのはずだったのに……
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
あ、えっと……?

長いまつ毛に、栗色の瞳の美少女、そう、栞さんがいたのだった。

花崎 栞<ハナサキ シオリ>
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
芥川ちゃん。
今時間ある?

ないとは言えないこの性格。

気がつくと栞さんの問いに頷いていた。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
うん。

手を引かれ、辿り着いたのは階段下。

しかも、人気のない渡り廊下の近く。

逃げ道を塞がれた気がして、思わずゴクリと息を飲み込んだ。

先に口を開いたのは栞さん。
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
芥川ちゃんさぁ、もしかして翔の事好きだったりする?
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
えっ、な、なんで…?
動揺に思わず声が裏返りそうになる。

そんな私を見て栞さんは、「やっぱりね」と溜め息をついてもう一度口を開いた。
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
芥川ちゃんさ、勘違いしてない?
翔の事、スポーツ脳の元気で陽キャな男子だと思ってるでしょ。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
え、いや…
私の相槌なんて聞こえてないかのように、いや、違う。
溢れてくる言葉を止められないんだろうな。

栞さんは、どこか上の空で話し続けている。
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
芥川ちゃん、知らないでしょ?
翔が本当はめっちゃ本が好きって事。
私以外に言ったことないって…これからも言うこともないって、そう言ってたし。
だからさ、勘違いして好きになってるんだったらそれは本当の意味で好きではないと思うの。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
え、いや…あの、
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
それにさ、男子なのに本が好きって、なんかあれでしょ?
私も最初ははい?ってなったもん。
あ、今は理解してるけどね。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
ちょっと待って……
思ったより低い自分の声に自分でびっくりした。

栞さんも驚いたように目を見開いている。

思考よりも言葉が溢れて、止まらない。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
本が好きっていう気持ちを、否定しないで…!
男子だから何?翔くんが本を好きでいることの何がいけないの?
私は、翔くんの事、スポーツが出来るからとか、明るくて優しいからとか、そういう理由で好きなんじゃない…!
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
花崎 栞<ハナサキ シオリ>
じゃあなんでっ!
私はずっと翔の事、好きだったのに……
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
好きになるのに順番なんてあるの?
どこかの本で読んだような台詞。

こんな言葉しか持ち合わせてない自分もどかしい。
この気持ちを表す言葉は、きっと私じゃ見つからない。

でも、栞さんには伝わったようだった。
栞さんが何か言おうと口を開きかけて、その一瞬後、大きく目を見開いた。

怪訝に思って後ろを振り返る。

確信を抱きながら。

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