ここは…夢、ではなく翔くんの家。
私は今彼の家に来ています。
隣に座っていた花菜ちゃん(好きな食べ物はケーキ、今現在クラスメイトに気になる男の子がいる)に話しかけられて初めて、私は現実に引き戻された。
あ、ちなみに好きな食べ物とか、好きな子の話は花菜ちゃん本人情報ですから!
ニヤリと笑った花菜ちゃんは、驚く続きを口にする。
言い忘れてたけど翔くんは、10分程前にお母さんに買い物を頼まれてスーパーに行ってしまった。
つまり、今この家には私と花菜ちゃんだけであって…
いや、でも部屋はダメでしょう。
ぐいぐいと手を引かれ、ほとんど引きずられるように階段を登って左側。
そこに翔くんの部屋はあった。
花菜ちゃんはガチャりとドアを開ける。
罪悪感はまだ残ってたけど、好奇心が勝ってしまった。
部屋に入ると、右側には本棚。
その中身を見て、私はくらりと目眩がした。
え…なに、これ…
暫く立ち尽くしていると、階下からドタドタと慌てたような足音がした。
その足音は、こちらへ近づいてきて…
珍しく焦ったような顔をして、翔くんが部屋に入ってきた。
花菜ちゃんが謝ると、翔くんは浅くため息を着いたあとしゃがみこんで、その頭を撫でた。
私も慌てて謝ると、翔くんは首を横に振った。
何となく言葉少なに下におりる。
1階に下りた頃には、翔くんも笑みを浮かべていて、私は安心する。
そのあとは何事も無かったように夕方まで時間を過ごして、私はお暇することにした。
そう言って翔くんをちらりと見ると、翔くんはにこりと笑って頷いた。
翔くんがそう言ってくれたので、お言葉に甘えて駅まで送ってもらうことにした。
駅までの道すがら。
唐突に翔くんに話しかけられた。
向けられた笑顔に心臓が大きな音を立てる。
いつの間にか、駅に着いてしまっていた。
私はふわふわと夢心地で、電車に乗り込んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!