自宅のお風呂場。
浴槽のお湯に浸かりながら、私は今日の出来事を一つ一つ思い返していた。
そう言ってぶくぶくと鼻まで湯に浸かる。
1番印象的…というか、衝撃的だったのは、翔くんの本棚。
中身は、大量の小説。
文庫本や、ハードカバーが所狭しと並んでいた。
最近出てきた作家から、文豪まで。
見間違い、じゃないはず。
答えなど返ってくるはずもなく。
もやもやとした気持ちを抱えたまま、今度は頭までお湯に浸かる。
数秒後ゆっくりと上がって、ぼんやりとしていると、頭の片隅からこんな言葉が浮かんできた。
"色を見るものは形を見ず、形を見るものは質を見ず"
だったら私は、何を見れば良いのでしょうか…!!
現実?理想?それとも幻?
また私は、ぶくぶくと頭までお湯に浸かった。
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翔side
自宅の風呂場。
まずいまずいまずい…
ブクブクと口元までお湯に浸かりながら俺は焦っていた。
俺の、本棚。
中身は、大量の小説。
本が好きだってバレたくなくて、バレたら馬鹿にされそうで、他の人には言えなかった俺の趣味。
ここまで隠してきたのにバレたらお終いじゃないか…!
終わりのない思考をループしていると、花菜の大声が聞こえた。
まあ、この問題ばかりは、いくら考えても分かんないか。
気づいてないならそれでいいんだ、うん。
俺はそう割り切って、湯船から立ち上がった。
風呂場のドアを開けると、案の定頬を膨らませた花菜が仁王立ちをして待っていた。
そう言い終えて、たった今俺が出てきたドアに入っていく。
俺の気持ちなんて露ほども分からないんだろうなぁ。
そう思いながら自分の部屋へ向かう。
出迎えてくれたのは、大量の小説たちだった。
その時、同じタイミングで一葉が溜息をもらしていたことは、翔も、一葉も知らない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。