なんでこんなことになっちゃったんだろう…
そう思いながらちらりと横を見上げる。
翔くんは校門を出てから──いや、図書室を出てから一言も発していなかった。
これって私から声をかけるべき?
いや、でもなんて声をかければいいの…!
とりあえず近づいてきたテストの話でもしようか。
そう思って口を開きかけたその時、翔くんがこちらを見た。
やっぱり今日の翔くんは変だ。
嘘じゃない…はず!
だってそう思ってるもん!
私の言葉を聞いた翔くんはぽかんと口を開けて私を見ていた。
心配になって身を乗り出して翔くんの瞳を覗こうとすると、翔くんは笑い出した。
ふと、空気が変わる。
翔くんが笑みを消して私に何かを言おうとした時、後ろから声が聞こえた。
聞こえた声と同時に走る足音がどんどん大きくなって、私の横を通過する。
その声の主は、勢いそのまま、翔くんに抱きついた。
無理やり引き剥がされた女の子は「むぅ」と不貞腐れながら、渋々翔くんから離れた。
栞さんって言うんだ……
それにしても、すっごく綺麗な子。
小さな顔に、ぱっちりとした二重の瞳。
鮮やかな桃色の唇と、すっとした鼻だち。
完璧と形容するにふさわしい女の子だった。
目を白黒させている私を他所に栞さんは話し続けている。
にっこりと笑った栞さんの目の前で翔くんが我を取り戻したようにハッとして、言葉を挟む。
そう言って私にアイコンタクトをして歩き始めた翔くんの腕を栞さんは掴む。
栞さんの綺麗な目が私を捉える。
なんか、睨まれてるって思うのは流石に被害妄想…?
先にいる翔くんに聞こえないくらいの小さい声で栞さんは呟いたと思ったら、一瞬後には私に笑いかけていた。
なんか、新キャラ登場…
波乱の展開が待ち受けているに違いない。
そう思った帰り道だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。