第17話

Diaryー17ー
21
2021/12/04 05:00
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
あの、翔くん?
図書室過ぎたけど……
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
ごめん、ちょっと付き合ってもらっていいかな。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
付き合っ……え?

何も説明してくれずに翔くんは前に進む。

掴まれた腕だけが熱くて、なんだか妙に心拍が上がってしまう。

芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
ねぇ、翔くん……?
翔くんは何も答えてくれない。

なんか私、怒らせた……?

何をしてしまったのか必死に記憶を辿っていると、ふいに翔くんが立ち止まった。

太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
一葉ちゃん、ごめん。
どうしても話したくて連れてきちゃったけど迷惑だったかな?
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
そんなこと……!
私こそ何かしちゃったならごめんね。

私がそう言うと、翔くんは少しだけ目を見開いてそれからその目を優しく細めた。

太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
なんで一葉ちゃんが謝るの?
俺、怒ってないけどなぁ。
幼い時から友達が少なくて、人と関わる機会が極度に無かった私からすると、人の心なんて不透明で見えなくて。

だから透明で分かりやすい物語に逃げてしまっていたのかもしれない。

芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
そ、そうなんだ…。
えと、じゃあ話って?
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
あぁ…。
一葉ちゃんさ、栞のこと気にしてる?
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
栞、さんのこと?
きき気にしてないよ?
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
ほんとに?

ダメだ……私、翔くんのこの目に弱い。
この、全てを見透かすような瞳。

透明すぎて時々怖くなる。
でも、ずっと見ていたい。
芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
嘘……です。
本当は気にしてた。
太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
やっぱりそうかー。
なんか、栞がごめん。
悪いやつじゃないんだ。

栞さんが羨ましいな。
翔くん、栞さんのことよく分かってるみたい。

芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
それは知ってるよ。
ごめん、私もう行くね。

口早にそう言って、私は翔くんに背を向けた。

これ以上ここにいると、黒い気持ちが頭の中を渦巻いて口から出てきてしまいそうだった。

分かってる。
これは、ただの嫉妬だって。

でも、醜い私の感情で、翔くんをがっかりさせたくなかった。

太宰  翔<ダザイ  カケル>
太宰 翔<ダザイ カケル>
え、ちょ、一葉ちゃん?
 翔くんの戸惑った声を背に受けながら、私は図書室へ足を向けた。


芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
……はぁ。
やっぱり私だけ好きとかしんどい。
気が付けば、考えてるのは翔くんの事ばかり。

こんなこと自体初めてで、何が正しくて何が不正解なのか分からない。

翔くんと栞さんは美男美女で誰が見てもお似合いだし、幼馴染だし。

小説の中だと絶対に付き合うオチの2人だから。

ずかずか入って行けないよ……
やっぱり諦めるべき?

でも、それはしたくない。

芥川  一葉<アクタガワ  カズハ>
芥川 一葉<アクタガワ カズハ>
もう……何からしたらいいんだろう。
私の小さな呟きは、誰もいない廊下に反響して消えた。


プリ小説オーディオドラマ