王龍の屋敷 テラス。
ついに腐豪、王龍の屋敷に忍び込んだ私とシリウスは、
ひっそり身を隠しながら、作戦決行の時を待っていた。
シリウスが、持っていたノートPCのエンターキーを押した――瞬間。
屋敷の至る所で、ガラスが割れるような音と警報音が響く。
中庭を見下ろせば、犯行を予測して集まっていた警護官たちが、
あたふたと、混乱して走りまわっている。
シリウスは私を片腕に抱くと、鋼鉄のワイヤーを頼りに飛び降りた。
待ち構えていた警護官たちを気絶させた私たちは、部屋の奥のケースに近づく。
手袋をつけ、ケースのフタに手をかけた――次の瞬間。
部屋の明かりがいっせいに消え、目の前に金属のオリが落ちてくる。
下敷きにならずにすんだが、私とシリウスはオリの中に閉じ込められてしまった。
冷たいオリにもたれて座ったシリウスは、持っていたノートPCを開く。
シリウスはマスクを外すと、高速でキーボードを叩き始める。
モニターの薄明かりが、真剣なシリウスの横顔を照らす。
私はシリウスのこめかみにキスをすると、勢いよく立ち上がった。
私はシリウスにウインクをして、胸元から一本のピンを取り出す。
私とシリウスはどちらともなく、手を打ち鳴らす。
そして怪盗として、一世一代の見せ場に立ったのだった――。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!