――シリウス、ポイント2-Bに着いたわよ。
はいはい‥‥オープンセサミっと。
インカムごしにシリウスがキーボードを叩く音がする。
すると目の前のドアにかかっていた電子ロックが、カシャンと開いた。
すごい‥‥シリウス、魔法使いみたいね。
俺は魔法使いじゃなくて、ただのエージェント。さっさと進んだら。
はーい。
――今夜のターゲットは「ジョゼフィーヌのティアラ」。
怪盗シリウスはバックアップなので、カフェから遠隔で参加している。
私は笑いながら、まっくらな館の廊下を音もなく駆けて行く。
(どんな電子ロックや警報装置も、一瞬で解いちゃうなんて‥‥)
さすがは「DoT」のハッカーさん。
ま、アンタらとは鍛え方が違うからね。
「DoT」では普段、なにしてるの?
アンタ、そもそも「DoT」がなんなのか知ってるワケ?
United States Department of Treasure Defense――通称「DoT」。
200人だけが所属する、アメリカの財宝防衛省。
一部のエージェントは怪盗として「怪盗連盟」にも登録してる、と。
エージェント「シリウス」はそのうちの一人、凄腕の天才ハッカー。
‥‥ふーん。ま、思ったより調べてんじゃん。
仲間のことだもの。相手のことを知ることは、大事じゃない。
はぁ? アンタの仲間になったつもりはないんだけど。
いいじゃない、どうせこれからなるんだもの。
アンタなぁ‥‥だから言ってんだろ、俺が動くのは俺のため。
別にアンタのためじゃ――。
ん‥‥? うわ、侵入者だ! 怪盗リュンヌ!?
あら、こんばんは。
次の瞬間、いっせいに館の電気がつき始める。
もしかして見つかったワケ?
もしかしなくても。マジメに巡回中の警備員さんにね。
せっかくお宝を手に入れたのに、盛大なお見送りになりそう。
近くのドアや窓の電子ロックがかかる音に、私は溜め息をつく。
冗談。俺は腹が減ったんだから、さっさと帰ってきてハンバーガー作ってよ。
あら、じゃあノアがお迎えにきてくれる?
それも冗談。道は作ってあげるから、自分で歩いて。
道‥‥と言われても、今まさに袋のネズミなんだけど。
アンタはまだまだ「Dot」を分かってないね、リュンヌ。
中にはバカも混ざってるけど――「DoT」所属の怪盗は、天才なんだよ。
☆
‥‥はい、エトワールスペシャルハンバーガー。
どーも。
まさかハッキングで、逆に警備員たちを閉じこめちゃうなんて。
ノアって本当に天才ハッカーなのね。
‥‥別に褒めたって何もでないけど。
パソコンが壊れた時は、よろしくね。
はぁ? 俺は町の電気屋じゃないんだけど。
いいじゃない、パソコンを見てもらうくらい。
‥‥怪盗シリウスをタダで動かせると思うなよ。
あら、コレじゃもの足りない?
私はテーブルのハンバーガーをお皿ごと取り上げる。
はあぁ? やり方が汚いでしょ。いいから返してよ、ほら。
軽い身のこなしで逃げるが、ノアはいとも簡単に、
テーブルを飛び越えて、私の手首をつかむ。
わっと‥‥!
う、わ!
お皿に気をとられた分、私がぐらりとバランスを崩す――が。
ノアは右手でお皿を支え、左手で私を抱きよせた。
アンタなぁ‥‥ハンバーガーが落ちたら、どうするワケ。
手間かけさせないでよ。足を引っ張るのは、怪盗の時だけにしたら。
はーい。‥‥ありがと、ノア。
はぁ? お礼なんて、言われる筋合いないんだけど。
今、守ったのはアンタじゃなくてハンバーガー。わかった?
わかった、わかった。それでも、ありがと。
‥‥うるさいな、礼はいらないって言ってるでしょ。コレがあれば、十分だっての。
ノアは視線をそらしながら、ハンバーガーをほおばったのだった――。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。