第11話

2話
1,847
2019/05/03 06:01
あなた

――シリウス、ポイント2-Bに着いたわよ。

シリウス
シリウス
はいはい‥‥オープンセサミっと。
インカムごしにシリウスがキーボードを叩く音がする。
すると目の前のドアにかかっていた電子ロックが、カシャンと開いた。
あなた

すごい‥‥シリウス、魔法使いみたいね。

シリウス
シリウス
俺は魔法使いじゃなくて、ただのエージェント。さっさと進んだら。
あなた

はーい。

――今夜のターゲットは「ジョゼフィーヌのティアラ」。
怪盗シリウスはバックアップなので、カフェから遠隔で参加している。

私は笑いながら、まっくらな館の廊下を音もなく駆けて行く。
あなた

(どんな電子ロックや警報装置も、一瞬で解いちゃうなんて‥‥)

あなた

さすがは「DoT」のハッカーさん。

シリウス
シリウス
ま、アンタらとは鍛え方が違うからね。
あなた

「DoT」では普段、なにしてるの?

シリウス
シリウス
アンタ、そもそも「DoT」がなんなのか知ってるワケ?
あなた

United States Department of Treasure Defense――通称「DoT」。

あなた

200人だけが所属する、アメリカの財宝防衛省。

あなた

一部のエージェントは怪盗として「怪盗連盟」にも登録してる、と。

あなた

エージェント「シリウス」はそのうちの一人、凄腕の天才ハッカー。

シリウス
シリウス
‥‥ふーん。ま、思ったより調べてんじゃん。
あなた

仲間のことだもの。相手のことを知ることは、大事じゃない。

シリウス
シリウス
はぁ? アンタの仲間になったつもりはないんだけど。
あなた

いいじゃない、どうせこれからなるんだもの。

シリウス
シリウス
アンタなぁ‥‥だから言ってんだろ、俺が動くのは俺のため。
シリウス
シリウス
別にアンタのためじゃ――。
警備員
警備員
ん‥‥? うわ、侵入者だ! 怪盗リュンヌ!?
あなた

あら、こんばんは。

次の瞬間、いっせいに館の電気がつき始める。
シリウス
シリウス
もしかして見つかったワケ?
あなた

もしかしなくても。マジメに巡回中の警備員さんにね。

あなた

せっかくお宝を手に入れたのに、盛大なお見送りになりそう。

近くのドアや窓の電子ロックがかかる音に、私は溜め息をつく。
シリウス
シリウス
冗談。俺は腹が減ったんだから、さっさと帰ってきてハンバーガー作ってよ。
あなた

あら、じゃあノアがお迎えにきてくれる?

シリウス
シリウス
それも冗談。道は作ってあげるから、自分で歩いて。
あなた

道‥‥と言われても、今まさに袋のネズミなんだけど。

シリウス
シリウス
アンタはまだまだ「Dot」を分かってないね、リュンヌ。
シリウス
シリウス
中にはバカも混ざってるけど――「DoT」所属の怪盗は、天才なんだよ。














あなた

‥‥はい、エトワールスペシャルハンバーガー。

シリウス
シリウス
どーも。
あなた

まさかハッキングで、逆に警備員たちを閉じこめちゃうなんて。

あなた

ノアって本当に天才ハッカーなのね。

シリウス
シリウス
‥‥別に褒めたって何もでないけど。
あなた

パソコンが壊れた時は、よろしくね。

シリウス
シリウス
はぁ? 俺は町の電気屋じゃないんだけど。
あなた

いいじゃない、パソコンを見てもらうくらい。

シリウス
シリウス
‥‥怪盗シリウスをタダで動かせると思うなよ。
あなた

あら、コレじゃもの足りない?

私はテーブルのハンバーガーをお皿ごと取り上げる。
シリウス
シリウス
はあぁ? やり方が汚いでしょ。いいから返してよ、ほら。
軽い身のこなしで逃げるが、ノアはいとも簡単に、
テーブルを飛び越えて、私の手首をつかむ。
あなた

わっと‥‥!

シリウス
シリウス
う、わ!
お皿に気をとられた分、私がぐらりとバランスを崩す――が。
ノアは右手でお皿を支え、左手で私を抱きよせた。
シリウス
シリウス
アンタなぁ‥‥ハンバーガーが落ちたら、どうするワケ。
シリウス
シリウス
手間かけさせないでよ。足を引っ張るのは、怪盗の時だけにしたら。
あなた

はーい。‥‥ありがと、ノア。

シリウス
シリウス
はぁ? お礼なんて、言われる筋合いないんだけど。
シリウス
シリウス
今、守ったのはアンタじゃなくてハンバーガー。わかった?
あなた

わかった、わかった。それでも、ありがと。

シリウス
シリウス
‥‥うるさいな、礼はいらないって言ってるでしょ。コレがあれば、十分だっての。
ノアは視線をそらしながら、ハンバーガーをほおばったのだった――。

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